発光ダイオード(LED = Light Emitting Diode)
発光ダイオード(LED、エル・イー・ディー)は全く新しいタイプの光源で、トランジスタ技術の発達に伴い1968年に生み出された。
従来の光源がバルブ(球根)の形状をした真空管光源とすると、発光ダイオードはトランジスタ光源(固体発光素子)といえなくもない。
トランジスタをはじめとして固体素子の大きな特徴は耐久性が高いことである。
また、固体素子は小型化することが容易で消費電力も少なくてすむ。
ただし、多くの固体素子についていえることであるが、大型のものを作ることが苦手で、発熱に対してデリケートであり、比較的高価なのが欠点である。
光源に限らず電気素子全般を見渡してみると、最初は真空管タイプのものが開発され、その後に固体素子が開発され多くのシェアを奪っていった。
しかし市場の数%は真空管タイプのものが残り安定化する。
トランジスタと電子管(真空管)、ブラウン管と液晶モニタ、ガスレーザと半導体レーザなどがその好例である。
光源の世界においては、今のところ電子管タイプが圧倒的に強い位置にあるものの、表示装置などでは発光ダイオードのシェアが高くなっている。
発光ダイオードの高出力高輝度化は開発が急ピッチで行われていて、効率の良い半導体材料の開発、熱に耐える設計、射出光学設計が意欲的に行われているようである。
CDやDVDなどのピックアップ光源に使われている半導体レーザは、発光ダイオードとおおよその原理は同じである。
半導体レーザに関してはレーザ(LASER)の項目で紹介したい。
発光ダイオード(LED)の発光の仕組み
発光ダイオードは、トランジスタの石そのものが光るものである。
LEDが発明された当初は赤外発光のみであり、それが赤色領域まで拡げられた。
開発当初のLEDは発光輝度がそれほど高くなく表示程度の使い道しか考えられなかったが、10年ほど前より高輝度LEDの開発が進み、発光色も緑、青、白色ダイオードが開発されるまでになった。
現在では、交通標識の信号ランプの代替ランプとして使われるまでになり、交通渋滞を示す表示パネルにも発光ダイオードが使われている。
交通表示灯に従来の白熱ランプに替えて発光ダイオードが使われるようになった理由は、消費電力が低く耐久性が高いためである。
交通量の激しい道路でのランプ交換は交通渋滞を引き起こし、交換作業のための安全確保にも多くの労力と費用が発生するため、発光ダイオード利用の期待は大きいものが
ある。
トランジスタ(半導体)がなぜ光を出すのかというのは難しい質問である。
いろいろな本を読んでみても専門的すぎて一般には馴染みが薄くてよくわからない。
発光ダイオードは半導体ダイオードである。ダイオード(Diode)とは、2極真空管
のことである。
2極真空管は、英国のフレミング(John A. Fleming)が発明した。
フレミングは「フレミングの右手・左手の法則」で知られる有名な電気物理学者である。
面白いことに、フレミングはロンドン大学の教授を務める傍ら、エジソンの電灯会社の技術顧問をしており、タングステン電球の改良に関わっていた。
1884年、その研究成果のひとつとしてエジソン効果を発見する。
エジソン効果とは、フィラメント電球の中に別途電極を封入してフィラメントとの間に正の電圧を加えると、電極からフィラメントを通しては電流が流れるものの、逆の負の電圧を加えると電流が流れないという原理である。
これが後の2極真空管発明の種火となった。
2極真空管が電気を一方向にしか流さない弁作用を持った電気素子ということから、英国では真空管のことを命名したフレミングにちなんでバルブ(Valve)と呼んでいる(電球の球根形状を表すBulbとは違う)。
米国では真空管の形状そのものをあらわすチューブ(Tube)と呼んで両国でその言い方に違いがある。
フレミングが2極真空管を開発した背景には、彼は当時マルコーニの無線電信会社の技術顧問もしていて性能のよい通信用の検波管開発の必要に迫られていた。
彼は22年も前に関わったエジソン効果を思いだしてダイオードの発明に漕ぎつけたのである(実用的な検波管は1907年米国ウェスタン・エレクトリック社の技師ド・フォレストの3極真空管からである。
この3極真空管がトランジスタの原型となった)。
ダイオードは半導体素子の代名詞のように受け入れられがちであるが名前の由来は真空管であった。
半導体は、電気をよく流す材料と全く流さない材料の中間値(電気抵抗率:2.3×103Ω・m)を持つ材料で、シリコン、ゲルマニウム、ガリウム、ヒ素などがある。
電気技術者たちはこれら半導体材料を結晶レベルまで解明し、正の電荷を持ちやすいp型半導体と、電子を持ちやすいn型半導体を作り上げた。
この2種類の性質の異なる半導体を結晶レベルで重ね合わせると電気の流れはpからnへ一方向に流れるようになる。
これが整流素子ダイオードである。ただし、一方向へ流れるためにはp型半導体を乗り越えてn型半導体まで到達できるだけの電位差が必要であり、半導体素子によりその電圧が変わる。
通常は0.6~1.4V程度であるが、発光を促すだけの電位差(バンドギャップ)を持つには1.8~3.0V必要なのでシリコンやゲルマニウムによる半導体素子では十分な発光は促せない。
pn接合間では今述べた電位差ができていて、電流が流れるとその接合間に電圧×電流=電力、が消費される。
これがダイオードをはじめトランジスタ、IC素子で問題となる熱損失である。
半導体は、自己発熱でいともたやすく結晶組織が破壊される。
この熱損失こそが発光ダイオードの出発点である。
熱損失はとりもなおさず赤外放射である。
赤外発光をより近赤外に、そして可視光にするための半導体素子の開発が始まった。
厳密にいうとシリコンを使ったトランジスタの発熱は雑音のような熱放出で、発光ダイオードの発光は電子の励起発光である。
半導体が励起発光するにはpn間のバンドギャップが大きい必要がある。
それを可能にしたのがガリウムとヒ素を混ぜた半導体で、その基板上にpn半導体を作り電流を流すことにより赤色発光が得られた。
また、ガリウムとリンで黄色の発光が出るようになった。
発光ダイオードは、赤外から赤、黄色、緑、青と短波長へ進化した。
熱損失がそもそもの発光原理である半導体光源にとって青色発光の出現は画期的な出来事であった。
熱発光からスタートした半導体光源が、電子によって励起され光を出すガリウムリン、ガリウムヒ素などの半導体結晶を作り量子発光を促す可視光源を作り上げた。
高輝度発光ダイオード
日本のスタンレー社では、1980年代末に1,000mcdを超す高輝度LEDの開発に成功し、これによって高輝度LEDを使ったペンライトや懐中電灯ができるようになった。
また、最近では以下に述べるような高輝度の白色LEDを5個使った携行ランプが市販されている。
こうした高輝度LEDの製品化により興味ある光源がユーザの研究室レベルで簡単にかつ安価にできるようになった。
また、マシンビジョン分野ではLEDを複数配列した発光素子ブロックをCCDカメラ用光源として採用し、無影灯、ストロボ光源としていろいろなタイプが市販されている。
LEDの光源としての魅力は次のとおりである。
- 小型堅牢
- 低消費電力、低発熱量
- 光量調整が安易
- パルス発光が簡単(1μs程度)
簡単な発光ダイオード光源の作り方
大久保忠著「光ファイバの実験と工作」には、LEDの頭部に穴を開けその中に光ファイバを差し込んで接着する光ファイバストロボの作り方が紹介されている。
これを10個から20個程度製作して実験に利用すればいろいろな使い方ができると考える。
氏の本の中には、LEDと光ファイバの製作するに際に使う部品の実際の製品名と特性が掲載されていて、入手が容易であるので、この本を頼りに秋葉原か大阪日本橋で買いそろえれば手作り光源ができる。
※高輝度LED(スタンレー「H-2K」。その後「H-3000L」と呼ばれる3,000mcdのものが市販された。ただし現在では製造を中止している模様。代用品は下の表の製品表を参照)
H-2Kは50mAの順電流を流したときλ=660nm(赤色)にて2,000mcdの発光光度を得る。
このLEDを10cmの距離から被写体を照らすと下記の式の明るさを得ることができる(照度計算の詳細は、「光の明るさ」参照)。
2,000×10-3〔cd〕/(0.1〔m〕)2 = 200〔lx〕
さらにパルス発振によってストロボのように使えば、LED内部発熱を抑えることができるので300mAまで流すことができる。
この場合の想定照度は約6倍の1,200lxとなり、照射距離を5cmまで近づければ5,000lxの明るさになる。
実際このLEDを白い紙に照射すると非常にまぶしく、しばらくの間、光源像が網膜に焼き付くぐらいに明るく発光する。
このLEDは指向性が強く照射角度が4°程度なので10cmでの照射範囲は、
2×100〔mm〕×tan 2°= φ7〔mm〕
であり、φ7mm程度のエリアの照射となる。
先に述べた光ファイバを挿入した光源では、光ファイバの開口数によりLED発光が拡がる。
照射角度が24°程度のファイバ(N.A. = 0.20)を使うとファイバ端から100mmの照射距離で照射エリアφ40mmの大きさになる。
LEDの開発の歴史は、赤外発光から始まり赤色、緑を経て青色領域にまで延びてきており、さらにフィラメントランプに置き換わるべく高輝度化を目指している。
ちなみに、発光ダイオードのメーカとしては、スタンレー、シャープ、東芝、ヒューレットパッカード、ローム、三洋、豊田合成、日亜化学などが有名である。
日亜化学は徳島でブラウン管などに使われる蛍光材を製造し、発光ダイオードも製造していた会社で、青色発光ダイオードの開発にいち早く成功し業界の大手となった。
高輝度の発光ダイオードは、照明装置としてよりも屋外での表示灯、大型ディスプレイ装置の素子として需要が高いように思われる。
画像・映像の分野では高輝度パルス発光LEDが望まれるので、高輝度LEDを用いることによって高輝度のパルス発光光源が安価にコンパクトにできると考える。
LED携帯ライト=懐中電灯
発光ダイオードが懐中電灯として使えるという情報を得て、そのランプを購入し性能テストを行った。
購入したのは米国Emissive Energy社の「INOVA X5」と呼ばれる5個の白色LEDが内蔵されたものである。
私はこれを秋葉原で約10,000円で購入した。これを選んだのはいろいろなLEDランプ(携帯ライト)の中で一番明るそうであったからである。
この製品に使われている白色LEDはとても明るく、10cmの照射距離で6,000lx、1mで160lxの明るさがあった。
このライトは、航空機用のアルミニウム2011を採用し、電池を入れる部分は無垢のアルミ材を削り出して作られている。
ライト外観に接合部分がないので頑丈で防水性に優れていると感じた。
大きさは、直径φ20mmで長さ118mm、重量約80gでペンライトよりは少し大きめの感じを受けた。
携帯LEDライトの明るさ
採用されている白色LEDはとてもまぶしくて、昼間でさえもLEDをまともに見ると目が眩んだ。
照らしだす能力は、1mの照射距離で160lxであり、暗闇でかなり明るく照射することができた。LEDの性能を現すものに光度という単位がある。
この光度はLEDの発光の強さを表したものであるが、今回使用したライトは、1mの照射位置で160lxあったので、LEDの見かけの光度は160cdあるということになる。
光度の本来の定義は、発光体が全周方向すべての距離で同じ照度であるときに光度の表現が成立する。
今回試験した携行ライトの場合、投射方向のわずかの範囲だけ明るいので、明るい照度だけで光度を換算して表現するのは正しくはない。
しかし、LEDの性能表ではピークの光度を表記していることが多いので見かけの光度をもちいてライトの明るさの比較を行っている。
このライトは5個のLEDを用いて160cdの性能が出ているので、1個あたりのLEDの光度は32cd(32,000mcd)ということになる。
白色LEDでは、日亜化学の「NSPW-500BS」が5,600mcdの光度を持っていて最も明るい白色LEDのひとつとされているが、このライトの白色LEDはそれよりも6倍ほども明るい。
日亜化学のLEDは、大きさがφ5mmで、定格入力が3.6V/20mA(=72mW)となっているのに対し、INOVA X5ライトは、6.0Vで60mA(=360mW、私が計測した値)となっている。
これは消費電力で5倍も大きくなっている。どこのLEDを使っているのか興味あるところである。
このライトの有効な照射距離は10cmから3m程度でそれ以上の照射距離では物体を明るく照らすことはできなかった。
この照射距離で照らし出せる有効照射範囲は3cmから1m程度であった。小ぶりなライトであるため比較的近距離を照らすのが有効であると思われた。
携帯LEDライトの電源
このライトの電池は、リチウム電池(CR123A)を2個使用している。
この電池はデジタルカメラなどに使われる電池で、公称電圧3.0V、公称容量1,400mAh、連続標準負荷電流20mA、使用温度-40~+70℃の性能を持っている。
リチウム電池は1970年代に軍需用として開発され、日本のメーカによって民生化された。
この電池は自己放電が少なく、大電流が流せ、温度に影響されずに一定の放電特性が得られ、しかも3.0Vという高い放電電圧が得られる。
携帯ランプでいつも哀しい思いをするのは、使用する乾電池が自己放電しやすいため、いざ使おうとしたときにランプがつかないことである。
リチウム電池ではそのような問題はまずおきない。
リチウム電池は使わなければ放電しないので、もちが良い。反面高価であるのが欠点である。
この電池は1個あたり800円ほどである。
この電池を使って今回のLEDライトがどれだけの電流を流しているかの実験をしたところ、300mA流れていた。
リチウム電池の連続標準負荷の10倍強の電気を流しているため長時間の点灯は電池に極度の消耗が出ると思われた。
このライトに流れる電流が300mAであったため、LED1個当たりでは60mAの電流が流れていることになる。
LEDは10mAから20mAの電流を流すのが一般的であるので、このライトは約3倍の電流が流れていることになる。
したがってこのリチウムバッテリでの使用時間は約5時間程度と想定される。
ライト全体の消費電力は、6.0V×0.3A=1.8W であり、長時間(約5分程度)点灯しているとランプ前部が熱くなった。
5分間点灯すると、1.8W×5×60=540Jの発熱となり、129calの熱量になる。
ランプヘッドの重さが50g程度あり、アルミの比熱が0.216cal/g・℃なので129/(0.216×50)=12℃の上昇となる。
すみやかに熱を逃がさないと長時間使用ではLEDの耐久性に問題が出てくる可能性がある。
携帯LEDライトの使い勝手
ランプ前部は下の写真のような形状になっていて、φ5.5mmのLEDが放射状等間隔に配列されている。
LEDに特殊なレンズがついているのであろうか、LEDにしてはかなりの投射能力があるように感じた。
ランプ部と電池部は下右に示すようにネジが切られていて、ねじ込む形で装着するようになっている。
ネジ部はOリングが入っていて防水機能を持たせている(しかし最近の同一製品のランプは形状が異なっているようである)。
このライトはアウトドア用の携帯ライトとして開発され、レジャーやアウトドア、サイクリング、水辺、あるいは夜中の突然の車両整備、災害などに威力を発揮する。
高輝度のLEDは、約3キロ先から発光の確認ができ、航空機用に使われているアルミ製のボディは頑丈で車のタイヤで踏んでも崩れない丈夫さを持ち合わせているという。
LEDは発熱しにくく、通常の懐中電灯と比べ引火などの危険性がない。
さらにはバッテリ、LEDの寿命も長いので、電池や電球の取替の必要や消耗品の廃棄が少なくてすむ。
携行LEDランプの照度分布
このランプの配光特性は下図のとおりであった。
この特性図の値は照度計を用いて30cmの距離で照度を測ったものである。