液晶(LCD = Liquid Crystal Display)とは
液晶は、近年脚光を浴びている表示装置である。
光源として使われることはないが、表示用として急速な発展を見ている。
液晶は光を制御する素子ということができるであろう。
液晶は、トランジスタ技術と微細加工技術の集積により驚くほどの高解像力と高性能表示装置に発展してきており、光の調光というユニークな特徴を持っているため今後多方面にも応用されると考える。
液晶の原理とシャッタ機能について触れてみたい。
液晶構造の解明とトランジスタ集積技術の急成長により、テレビ受像装置はブラウン管から液晶ディスプレイに置き換わり、コンピュータディスプレイのほとんどが液晶に置き換わった。
液晶表示は、身の周りの至る所で見受けられる。
腕時計、家庭電化製品の表示、コンピュータのモニタ画面、液晶テレビ、液晶プロジェクタなど表示装置として多岐に渡って活躍している。
液晶ディスプレイがこれほどの進展を見たのはどのような利点があったからであろうか?
液晶の躍進の第一は、小型コンパクトという特徴が上げられる。
次に消費電力が少なく低い電圧でも駆動できる点が上げられる。
この両者の特徴で応用範囲が驚くほど広がった。
液晶が急速に普及する最初の製品は、1971年の液晶ディスプレイを使った腕時計の発売といわれている。
その次に電卓の表示モジュールに採用された。
1975年から1977年にかけてその勢いが一気に加速された。
その後、コンピュータのモニタに採用されはじめてテレビの受像機に発展していく。
コンピュータモニタはほぼその座を液晶に譲っている。
液晶(LC = Liquid Crystal)の発見
液晶を発見したのは、1888年、オーストリアの植物学者、F. ライニッツァー(F. Reinitzer)によってである。
彼はコレステロールと安息香酸のエステル化合物を結晶の形で作ることに成功した。
ところがこの結晶に熱を加えてみると、不思議な現象に遭遇した。
何と、二度も溶けたのである。
温度が145度Cになると結晶は白く濁った液体になったが、これが実に鮮やかな色を呈した。
さらに温度を上げて179℃にすると、今度は透き通った液体になった。
これが人類初の液晶の出会いとなった。
一体どうしてこのようなことが起こるのか彼にはわからなかったので、ドイツの物理学者O. レーマン(O. Lehmann)にその原理を解明してもらうことにした。
レーマンはついに、それは液体でありながら結晶がもっている独特のいくつかの性質、たとえば、結晶に当てる光の方向を変えると屈折率が異なるという複屈折といった性質、難しい言葉で言うと異方性があることをみつけ、“流れる結晶”という考えにたどりついた。
鮮やかな色を示した液体は、実は結晶と液体の中間状態であることから、後に、G. フリーデルが「液晶」と名付けた。
液晶ディスプレイの有用性
電子機器関連製品は、電子管(真空管)から固体素子へ流れる宿命を背負っている。
液晶ディスプレイもブラウン管(CRT = Cathode Ray Tube)に置き換わるべく性能を向上させてきた。
おもしろいエピソードがある。
液晶そのものの物理研究は、1888年と115年も前にさかのぼるが、液晶ディスプレイは、米国RCAと呼ばれるテレビ関連の企業の研究所で開発された。
1960年代半ば、ニュージャージー州にあるRCAのデビッド・サーノフ研究所で、ジョージ・ハイルマイヤーという若い研究者が液晶ディスプレイを発明したのである。
G. ハイルマイヤーとR. ウルンヤモスは、液晶に電圧をかける、つまり液晶を挟んで上下にプラス・マイナスの電極をつけてやると、液晶の中の光が通る割合、光の透過率が変化するという性質を見いだしたのである。
彼らはこの発見をもとに、液晶の変化を非常に低い電圧、たとえば10V以下といった電圧で、「液晶の中の長い分子がその並び方を変える」という発見をする。
彼らは直ちにその性質を利用して、世界で最初の液晶ディスプレイの原型を開発し「Dynamic Scattering Mode」と名付けた。
ただ、当時はこの液が非常に粘っこく、100℃ぐらいに温めておかないと液晶分子の並ぶ方向が変えられなかったので、そのままの状態で現在のようなディスプレイにすることはできなかった。
液晶装置は、1968年には応用製品の一環として室温でも作動する液晶ディスプレイの原型が姿を見せ、窓ガラスを二重にしてその間に液晶を封入し、その左右にかける電圧を変えることによって明るさが変わる調光窓ガラスも試作され一台センセーションを巻き起こした。
興味あることに、RCAの首脳はちらりとその製品を見ただけで、ハイルマイヤーの研究を即座に中止させてしまった。
彼らは今日の受像器が液晶ディスプレイになることを想像できなかったのであろうか。
当時RCAにとって、ブラウン管は利益の大きい商売だった。液晶ディスプレイはそのブラウン管ビジネスを脅かす可能性があったので、RCAの首脳は研究の中止を決定したのである。
現在、RCAの名はもはやテレビ市場にはない。そして液晶ディスプレイは、いたるところにある。
しかも、そのほとんどすべてが日本製であり、それが今韓国に移りつつある。
液晶の構造
液晶とは、「液体」と「結晶」の合成語である。
液晶は、結晶と液体の中間の状態――つまり、液体でありながら固体のような振る舞いもするもので、分子や原子は液体のようにバラバラであるが結晶のようにある一定の方向を向いて揃っているというものである。
このような性質から液体の「液」と結晶の「晶」を取って「液晶」と名付けられた。
英語では、「リキッド(液体)クリスタル(結晶)」、略してLCと呼ばれている。
通常、結晶は、分子や原子が互いにがっちり手を取り合って、頑丈な立体構造を作っている。
一方、液体は、分子や原子がバラバラであり、ゆるく互いに手を触れ合いながら存在している。
ところが、コレステロールの安息香酸エステルのようなものは、棒のような形をした分子や原子がバラバラになってゆるく互いに手を触れ合いながら存在している。
それに加えて、結晶液体の間に液状でありながら棒の向いている方向がそろうという状態がある。
これが液晶である。
液晶は、その構造上以下の3つのカテゴリに分けられる。
【ネマティック液晶】
細長い分子の軸方向が一方向に向いている液晶構造(液晶素子の代表的なもの)
【スメクティック液晶】
ネマティック構造がひとつの層であるのに対し複数の層構造(高速応答可能)
【コレステリック液晶】
スメクティック構造の各層が順次層毎にねじれている螺旋構造(温度計に使用)
こうした液晶構造に電気的な刺激を与えると液晶の分子配列の規則性に変化が表れ光の透過率が変化する。
この性質を利用したのが液晶ディスプレイである。
したがって液晶は、光を発するのではなく光の透過を制御する素子である。
液晶装置は、非常に薄い2枚のガラス板(面精度はかなり良い)の4辺の周りをシール材というもので支持し張り合わせてある。
2枚の板の間隙はわずか5ミクロン(0.005mm)。その2枚のガラス板の間に液晶が注入されている。
2枚のガラス板がかなり狭いためこの間隔を維持するためにスペーサーと呼ばれる極小のボールをちりばめている。
ここで重要な構造を述べる。
薄い間隙で配置された2枚のガラス板にサンドイッチ状に注入された液晶は、ガラス面に一方向に並ぶように工夫されている。
その上その並び方は2枚のガラスで90°ずらした「ねじれた」構造にしておく。
このねじれた液晶構造はガラス間に電極をおいて電圧を変えるとねじれの角度が変化する。
2枚のガラスにそれぞれねじれた方向に液晶を配列する仕組みはガラスに配向膜を張り合わせそこに細かな一方向のキズを付け(ラビングという)、そこに一方向性の液晶(ネマティック構造)を落とし込む。
配向膜はポリイミドの薄膜でできている。
このガラスを上下90°にクロスさせて張り合わせる。
この2枚のガラス間は約5ミクロンでその間はネマティック構造(ほんのちょっぴりコレステリック構造)の液晶で満たされる。
電圧が加えられていない液晶は配向膜に支えられて一方向に分子がならびふたつの配向膜の間の液晶は自然にねじれたような配列となって安定している。
この両者(ガラスにつけられた透明電極)に電圧が加わると液晶は配向膜の並びから外れて電極に向くようになる。
つまりふたつのガラス面に対して垂直に立つようになる。
さらにこの2枚のガラス板の外側に偏光板を90°に配置しておけば注入された液晶によってよりシャープに光が透過したり遮られたりするようになる。
つまり、液晶分子がガラス面に対して垂直に立つ場合は(電圧がかかった場合は)、液晶内は光透過が行なわれ、両面に配置された90°対向の偏光板によって光が遮断される。
電圧がゼロになると配向膜によって液晶が光を90°ねじ曲げるため、同じ90°に配置された偏光板をすり抜け光が透過するようになる。
このようにして電圧がゼロのとき液晶は光を透過するようになり、電圧を加えると90°に交差した配向膜によって光が遮られる。
このような仕組みをもった液晶をTN液晶素子(Twisted Nematic液晶素子)と呼んでいる。
一般に液晶ディスプレイ装置では、下にバックライトと呼ばれる光源を置き、その透過光で表示させているので基本的には何もしなければバックライトで白く表示される「ノーマリ・ホワイト」となる。
中には、2枚のガラス板の外側に配置される偏光板の振動方向を同じにした「ノーマリ・ブラック」のものもある。
カラーTFT液晶
液晶は上記のような構造を主原理として進化を遂げてきた。
現在では、これから述べるTFTと呼ばれる液晶が主流になっている。
TFTとは、Thin FilmTransistor(薄膜トランジスタ)の略で、液晶構造そのものではなく、液晶に電圧を加えるスイッチの仕組みのことをいっている。
液晶が7セグメントのような比較的大きな表示素子からコンピュータモニタのように1,000×1,000画素を超える高集積化素子に発展していくにつれ、液晶モジュールをコンパクトに設計し、しかも各液晶セルを高速でスイッチングする必要が生じ、TFT液晶が開発された。
TFTはその名の通り非常に薄いトランジスタ構造をガラス基板上に形成するものである。
ガラス基板上に微小薄膜トランジスタを作るというのがすごい。
一般のトランジスタがシリコン基板上で作られるのと違いガラス板の上に作られるのが大きな特徴である。
TFT液晶の第二の特徴は、スイッチング応答が速いことである。
液晶そのものは本来温度に依存し、粘性をもっていて電圧を加えても迅速に配列が変わらない特性を持っている。
この特性は、1,000×1,000画素を1/60秒で表示させなければならないコンピュータモニタでは大きな問題となっていた。
この問題を解決したのがTFT液晶である。
この液晶では各画素にすべてトランジスタを設けて、なおかつそのトランジスタ部に事前の電圧を記憶するメモリ部も持たせた。
メモリを持たせることで液晶は1/60秒の間に前からの変化分だけ配列を変えればよく、最初から配列するより高速に応答することが可能になった。
TFT液晶ではこのメモリに透明電極(ITO:酸化インジウムに酸化錫をドープしたもので、Indium Tin Oxideの意味)を使っている。
この仕組みによりVGAやテレビモニタでは液晶素子をCCDアレーのように細かく細分化し、微小セルをTFTでスイッチングするという方式が可能になった。
このスイッチング時間は、たとえばVGAモニタの場合、640×480画素を1/60秒で入れ替えている。
TFTのアクティブ・マトリクス方式を使えばこれらの信号は難なく送ることができる。
問題は液晶の動作であるが、液晶の動作が緩慢であるといっても1/100秒程度には十分に応答する。
したがって、TFTの信号が高速で送られてきてもその信号を受けてメモリし、次の信号が送られてくる間に液晶が反応していれば表示装置としてはことが足りることになる。
このようにして、TFT液晶では薄膜トランジスタで精緻なスイッチング素子をガラス基板上に作り、透明電極(ITO)をメモリとしたため高画素対応のディスプレイができるようになった。
液晶画面のカラー化においてもTFT液晶は重要な役割を果たしている。
カラー液晶は液晶の外側にカラーフィルタを備えて3原色の加色手法でカラー化するものである。
したがってカラー液晶では白黒ディスプレイに比べ3倍の集積技術が必要とされる。
それを可能にしたのが集積度が上げられてスイッチング性能の優れた薄膜トランジスタ型(TFT)液晶であった。
TFTカラー液晶ディスプレイを最初に製品化したのは日本電気(NEC)で、1989年5月のことといわれている。
NECは、当時NEC9801シリーズでパソコン業界のリーディングカンパニーの位置を占めていて、東京晴海で開かれたビジネスショーの展示会でTFTカラー液晶付きのパソコンを初出展した。
当時、他の会社はTN型液晶を進化させたSTN(Super Twisted Nematic)型でカラー化を行ったものが多かったが、NECは新しい技術を導入して他社と差別化を図った。
実際、これら両者を並べて展示したところ、コントラスト、応答速度、カラーの鮮やかさなどTFTカラー液晶ならCRTに劣らないことが明確になった。
NECはこの技術をノートブックにも採用し、1991年10月から9801 NC Notebook(カラーTFT液晶、640×400ドット、4,096色カラー)を発売した。
液晶シャッタ
液晶を用いて光の調光を行う装置が液晶シャッタである。
液晶は電圧により液体結晶構造の並びが変わるため、液晶をサンドイッチした両側の偏光板によって光を遮断・透過することができる。
高速シャッタは、液晶シャッタの他に次のようなものが開発されていた。
すなわち、ニトロベンゼンなどの液体に高圧を加えると光学的に等方性から異方性を示すケル(Kerr)効果を持つケルセルシャッタや、結晶体(ADP = 第一燐酸アンモニウム、KDP = 第一燐酸カリウム塩)の電界による異方性を利用したポッケルスセルシャッタ、磁界によって偏光が変わる(ファラディー効果)ファラディーシャッタなどである。
これらは短時間(ナノ秒単位)の光学シャッタリングができたのでレーザ発振に不可欠なQスイッチ素子として長らく使用された。
しかしこれらはいずれもシャッタリング駆動に数kVの高圧電源が必要で、高圧パルスを作る高圧スイッチング素子も必要であっため取扱が
難しく高価でもあったため広く使われるには至らなかった。
液晶シャッタは反面、低電圧で駆動できる特徴があり価格も安価である。
しかし、シャッタとして使う場合には以下のような問題が挙げられる。
- 偏光板を使用するために透過時でも透過率が25%程度
- 透過された光は偏光された光となる
- 光を遮断する場合、完全に遮断できずに少しは漏れる。光のONとOFFの比は1000:1程度である
- 高速シャッタ(1/10,000秒以下)が苦手
- 赤外領域(800nm以上)はシャッタ効果が低い
- シャッタリング周波数は最高7KHz程度
- 斜め入射光に対してはシャッタ効果がない
- レーザ光、偏光面のある光に対してのシャッタ効果はない
- 大型化が難(口径φ45mmが最大)
液晶シャッタは、米国Displaytech社から各種の口径とドライバが供給されている。
液晶シャッタに使われる液晶は、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)と呼ばれる強誘電性の液晶が使われており、スメクティック型の液晶である。
この液晶は分子の並びが層状であり、かつ並ぶ方向が斜め方向で電圧の切替によって右斜めから左斜め方向に倒れる性質をもっている。
この性質から、電圧がなくなってもその方向性を保つメモリ特性を持ち、動作速度も各種の液晶の中では高速となる。
コントラストも高く視野角度も広い。
FLCは高速シャッタとしては適しているが中間調が出しにくい特性を持っている。