蛍光灯
蛍光灯は柔らかい光の照射(陰ができにくく空間を均一に照らし出すこと)を得意とする光源である。
消費電力に対する発光効率が25%と高く熱損失が小さいため白熱電球に代わって家庭や事務所の照明として一般的になった。
家庭用では4Wから20Wクラスの蛍光ランプが一般で、大きなものでは220Wまで用意されている。
我が家の居間は、3×3mほどの床面積があり、そこに環型32型(30W)タイプ2灯、30型(28W)タイプ2灯の合計116Wの蛍光灯を備え付け、500lx程度の明るさになっている。
9m2のエリアを500lxで照らしてくれるため、我が家の居間の蛍光灯は、
500〔lx〕× 9〔m2〕= 4,500〔lm〕
4,500lmの前面投射光束を持っていることになる。
蛍光灯が作る物体の陰は柔らかである。
光源が点光源でなく面光源であるため多方面から光束が対象物にあたるため影が出にくいのである。
したがって蛍光灯は居間でくつろぐときやオフィスで仕事をするにはとても良い照明であり、日常生活にはなくてはならない理想の照明光源といえる。
蛍光灯は、放電灯の一種でそれも水銀灯の一種に属する。
ただし、水銀の蒸気圧が低い(10-2mmHg)真空管中での放電灯(低圧水銀放電灯)である。
蛍光灯は、蛍光灯管を真空排気した後、数mgの水銀粒と2~3mmHg程度のアルゴンガスを封入している。
アルゴンガスは蛍光灯の始動時に放電をしやすくするために入れられている。
水銀の放電は、1/100,000気圧程度の蒸気圧で放電させると253.7nmの紫外輝線スペクトルを発し、蛍光灯はこの領域を利用している。
水銀の蒸気圧をさらに高めて1気圧から数気圧にすると、可視域に青、緑、黄の強い輝線スペクトルがあらわれるようになる。
工場や街路灯に使われる水銀灯はこの高圧水銀灯を利用している。
水銀蒸気をさらに高めて10気圧以上にすると連続スペクトルが強くなる。
これを超高圧水銀灯と呼んでいる。
蛍光灯は、蛍光管内に取り付けられたフィラメントから放射される電子が放電管内に散在する水銀粒子に衝突し、これにより発生する紫外線(とくに強い253.7nmの共鳴放射)が管壁面に塗布された蛍光体を励起させ可視光に変換される。
発光が蛍光面を介するため(面発光であるため)高輝度発光は期待できない。
発光が蛍光面からの散乱光であるため、長い距離から物体を投光する(照らし出す)こ
とも不得意である。
最近、蛍光管をクルクルと丸め込む技術が発達し、これに反射鏡を取り付けて投光性能を増した蛍光ランプや、白熱電球の形をしたボール蛍光灯が開発されている。
これらは白熱電球よりも電気を消費せず、寿命が長い、初期投資が許される条件下で(白熱電球よりは高価なので)白熱電球に置き換えられて使用されつつある。
蛍光灯の歴史
蛍光灯は、1938年アメリカのインマン(G.E.Inman)によって発明された。
このランプは翌1939年のニューヨーク万国博覧会に出展され多数点灯されたといわれている。
日本ではその翌年1940年(昭和15年)に実用化され、法隆寺金堂の壁画模写の照明として126灯が配備された。
蛍光灯が一般に普及するようになるのは第2次世界大戦後である。
40Wタイプの棒状の昼光色蛍光ランプが1949年に実用化された。
このときの明るさは30lm/Wであった。
現在の40Wタイプの発光効率は75lm/Wであるから2.5倍も効率がよくなっている。
lm/Wという単位は、電気エネルギ1W当たりに放出する光の量を示したものでこの値が高いほど電気効率が高く多くの光を出している。
蛍光灯の発光効率の改善は蛍光体の改善でもあった。
蛍光体は、1942年にマッキーグ(A.H.Mackeag)らによって発明された蛍光体ハロりん酸カルシウムである。
日本においても1951年(昭和26年)に実用化され効率が大幅に向上した。
家庭用の居間の照明装置でお馴染みのリング状の蛍光灯(環型蛍光ランプ)は日本オリジナルのランプであり、1953年に30Wタイプとして開発された。
ブラックライト
特色のある蛍光灯としてブラックライトがある。
ブラックライトは360nmにピーク波長(発光波長310~410nm)を持つ紫外線蛍光灯である。
光化学反応や退色試験、宝石や鉱石などの鑑別、文書・紙幣・切手などの偽造発見、舞台・看板などの蛍光照明などに使われている。
また、このランプを流れの可視化実験で蛍光タフト(気流子)を浮かび上がらせる光源として用いたり、蛍光トレーサの光源として使うことがある。
この他、昨今のマシンビジョン用として紫外域のCCDカメラが開発されその光源として利用されている。
蛍光灯のフリッカ
蛍光灯の欠点に交流放電灯の特徴である放電のチラツキ(フリッカ)が上げられる。
フリッカは、交流電源周波数成分(電源周波数の2倍の100Hzもしくは120Hz)による光の増減であり一般の蛍光灯ではこの周波数で放電を繰り返している。
フリッカといっても一般の使用では人間の目に感じることはないが高速シャッタモードでのビデオ撮影を行ったり高速度カメラ撮影では顕著にあらわれる。
同じ交流電源を使っている白熱電球でフリッカがでないのは、白熱電球は電気のジュール熱によってフィラメントが発熱し、発熱したフィラメントが太くて熱容量が大きいので交流電源でもフィラメントが高温に保たれ続け発光変化が平均化されるためである。
それでも細かく見ると白熱電球にも光量の変化がわずかに認められる。
蛍光灯は放電電灯であり、発光が交流電源に素早く反応するためフリッカ(光源の周期的な明るさの変化)が現れる。
したがって短時間露光を行うシャッタカメラや高速度カメラでの撮影では、蛍光灯のフリッカが時間的照度ムラとして画像に現れるため注意が必要である。
インバータ蛍光灯は、周波数を20~50KHzに上げてフリッカの出る確率を低くしたもので家庭用に普及し始めている。
また映画用に使われる蛍光灯照明装置には250,000Hzのインバータを内蔵したバラストが使われ実質的なフリッカを除去している。
こうしたインバータ蛍光ランプは広い範囲を低照度で均一に照射する(100~3,000lx)応用や、画像取り込み用バックライト光源として用いられている。
蛍光灯照明は、高輝度、遠距離照射での応用には向いていない。
なぜ蛍光灯は交流点灯なのか?
蛍光灯はなぜ交流点灯なのであろうか。
一般的な使用ではそれほど問題にならないこの問題も、1秒間に1,000コマで撮影すると蛍光灯の放電発光(100Hz/120Hz)が如実に現れる。
直流電源で点灯すればこうしたフリッカは抑えられるであろうから何故直流点灯にしないのか、という素朴な疑問が昔からあった。
結論から述べると、蛍光灯は交流点灯がもっとも望ましいということである。
たとえ車のバッテリ電源を使って蛍光灯を点灯させたとしてもバッテリとランプの間には安定器が必要で、この安定器が高圧点灯回路と安定点灯のための交流発振回路を備えることになる。
蛍光灯は蛍光管(放電管)の両極に電子を放出するためのフィラメントが取り付けられている。
フィラメントは電気を通電させて熱電子を発生し電子を放出しやすくしているが、放電管の長い道程を飛び出させるには高圧(始動電圧)が必要である。
点灯回路によって放電管に電子が飛び出るようになると放電管の電気抵抗が急激に下がるため電子はどんどん放出されるようになりランプ電流が上昇し続ける。
これを「電気的負特性」と呼んでいるが、要するに電気的な「系」が収れんせず発散する。
こうしたシステムでは電流がどんどん流れ続けるため瞬時に電流が増大しフィラメントの寿命が尽きてしまう。
白熱電球では自分の発熱で抵抗が高くなるため、安定発光を行うフィラメント温度と抵抗の収束値があるが(これを電気的正特性という。白熱電球は点灯時フィラメントが冷えているため抵抗が低く定格の3倍以上の電流が数百ミリ秒の間、流れている)、蛍光灯には自分ではそれが決められないために外部の安定回路に依存せざるを得ない。
その役割を担っているのが安定器と呼ばれるものである。
従来はトランス(チョークコイル)1個でこの働きをしていた。
なおかつこのチョークコイルは始動時に高圧を発生させてランプの点灯を促すという一石二鳥の役割をこなす優れものであった。
このチョークコイルは一般的な蛍光灯には必ずついている四角い形をしたちょっと重たい金属の固まりである。
このトランスが商用電源の交流に対して流れすぎる電流を制御して蛍光灯ランプを安定して点灯する働きをする(このトランスの中に電気的絶縁を良くするために化学油、PCB= ポリ塩化ビフェニール、が使われその毒性ゆえに大きな話題となった)。
トランスに組み込まれたコイルは周波数によって固有の抵抗を持つためランプに対して過度な電流を提供することがなくなる。
これは交流だからできることであり、直流に対してはトランスは全く働かず抵抗値も「0」となってしまうため、蛍光灯の点灯に対しては交流を使うのが一般的になっている所以である。
もし直流電源で蛍光灯を点灯する場合には、ランプ点灯と同時に放電電流を抑えるため
直列に抵抗を入れなければならない。
抵抗を入れるとどうなるかというと、そこで電気を消費するため効率が悪くなる。
したがって直流電源を蛍光灯に使う場合には高圧点灯回路は別として、始動し始めたら電流を一定にする電気損失のない電流制御回路を作らなければならない。
この定電流回路は複雑でコスト高になるため、自動車バッテリの直流電源を蛍光灯に使う場合には、直流電源をいったん交流電源に直して一般の蛍光灯灯具を流用している。
そのほうがコスト的に安く上がるからである。
直流点灯蛍光灯
蛍光灯を直流で点灯させる試みは幾度かあり市販品もある。
直流点灯蛍光灯の特徴は、フリッカのでない面光源が得られることである。
市販されている装置は以下の特徴を持っている。
- 市販の蛍光灯を用いた直流点灯が可能。
- トランジスタによる直列型の定電流回路を応用し、出力電流を可変する調光機構を装備している。
- 用途として各種検査システム、特に高速高精度な画像処理用の照明光源として最適。
- 完全な直流点灯のため光量のリップル(変動)が少なく安定した光源が得られる。
- 高周波点灯では周波数と蛍光灯の共振により光量が不安定で、チラツキや暗くなることがあるがこの装置では一定に明るさを保つことができるので高速測定用の光源に最適である。
- ノイズレスのため、コンピュータなどの周辺での設置も可能。直流点灯の場合、点灯するまでに約5秒、光が安定するまで(光の調光が安定してできるようになるまで)に15分ほど必要とする。また、フィラメントの片方からのみ電子が飛び出すようになるので陽極側に黒化現象が生じ、これを回避するため定期的に極性変換スイッチで極性を切り換える必要がある。
「水銀」と発光
放電灯には、蛍光灯をはじめ水銀灯やメタルハライドランプに水銀を用いたものが多く見受けられる。
タングステンフィラメントの明かり(白熱電球)にとって代わり、一世を風靡している放電灯の主役として使われている「水銀」の正体とはいったい何であろうか?
なぜ水銀は放電発光体の材料として使われるのであろうか?
水銀は金属である。
金属には珍しく常温で液体であり、全金属中唯一のものである。
摂氏-38.86度で溶け、356.72度で気体になる。
水銀は重く、その重さは鉛より重く金より軽い(20度の液体での比重は13.5462、-38.86度の固体で14.193)。
水銀は、古くから知られていた金属で、いろいろな金属を取り出すとき(冶金)の媚薬として使われた。
水銀は重い金属なので化学結合力が弱く、合金として(アマルガムの形で)他の金属と親和し(仲良くなり)目的が終わればさっと身を引く貴重な性格を持っている。
水銀を電気的に見てみると、水銀は重い金属のため電子をいっぱい持っていて(原子ひとつ当たり電子52個)、自由電子も比較的活発に移動できる。
電気抵抗は、鉛の抵抗値20×10-8Ω・mより少し高い値の95.8×10-8Ω・mである。
この値はニクロム線とほぼ同じ値である。
ちなみに銀は1.62×10-8Ω・m、鉄は9.8×10-8Ω・mであり、この値から見ると水銀の電気抵抗は、それほど低いわけではない。
水銀は常温で液体であり、かつ常温で蒸発して水銀蒸気が存在するため、蛍光灯ではこの水銀蒸気を積極的に利用している。
蒸発している水銀の度合いは摂氏20度で1.2×10-3mmHg、摂氏50度で12.7×10-3mmHg程度である。
蛍光灯は、水銀蒸気で発光するため温度が低いと点灯しづらい。
水銀は重い金属で大きくそして電子を比較的簡単に受け渡しするので、放電の際に電子が気体として浮遊している水銀原子に衝突すると、水銀原子中の電子はエネルギをもらい(励起され)、これが安定状態に戻るとき特有のエネルギ(全放射の90%がλ=253.7nm、残りがλ=185nmの紫外線)を放出する。
水銀のこうした、蒸気になりやすくてなおかつ電子をもらいやすくて離しやすい、そして紫外線を発光しやすい性格が光を作る放電灯の基礎原理となった。
蛍光灯に限らず現在の放電灯のほとんどにこの水銀が使われている。
水銀は、重金属でしかも常温で唯一の液体であるため電気分野ではいろいろ特徴ある役割を果たしてきた。
水銀の電気分野での使われ方
余談ではあるが、水銀を理解するために水銀と電気の関わりを述べてみたい。
放電灯
水銀は常温で液体でありしかもある程度蒸気として気体にもなり得るので放電によって光発光を伴う性質があることが早くから知られ注目されていた。
水銀蒸気による放電ランプの原型は、1982年英国のDavy(ディビィ)が水銀の放電発光
を発見したことに始まる。
19年後の1901年にはクーパー・ヒューイット(P. Cooper Hewitt)によって水銀ランプが試作された。
1906年にはキューによって石英管を使った水銀ランプが作られた。
当初は医療用や研究用に使われ、その後改良が進み、1930年代に照明用として使用されるようになった。
水銀ランプは演色性が悪いという性質を持っているが1950年には蛍光物質の開発が進み、その結果、演色性の改善が進んで高圧水銀ランプの急速な普及を見ることになる。
整流器
水銀の金属としての性質、液体という流動性と蒸気金属になりやすいという利点を活かして作られた整流器である。
大きなガラス状の装置で形がタコに似ていたためタコ型整流器と呼ばれていた。
この整流器もシリコン半導体の出現により高電圧、大電流のシリコン整流器が開発されるとその役割をシリコン整流器に譲っていくようになった。
このガラス製の大型整流器が電気機関車に積み込まれて機関車のモータを回すときの交流→直流変換器に使われていた時代があった。
リレースイッチ
水銀の流動性と導電性、磁力に引っ張られるという特性を用いたスイッチである。
電池
水銀が電子を持ちやすく化学反応が強い他の金属と関係を保ちながらも金属単体として維持する力が強いという特徴、つまり、電気をもらったり渡しやすいという性質を利用して電池の素材(鼻薬)として使われている。
一般に耳にする電池としては、水銀電池(ボタン電池)がある。
通常のマンガン電池にも添加物として水銀が入っていて環境問題で物議をかもしたことは記憶に新しいところである。
水銀の有害性
先にも述べたように冶金には極めて有毒な金属を使うことが多く、これをよく知らなかった(知っていたかもしれないが対策がわからず無視して利用していた)昔の人たちが人体に受けた艱難は想像するにあまりある。
奈良時代に大仏建立に携わった人たちの中に中毒症状を起こした人が数多くいたであろうことは想像に難くない。
金メッキの一手法として水銀アマルガムを用いた工法は当時画期的な工法であったかも知れないが、この手法は空恐ろしい内容を含んでいる。
アマルガムを加熱して水銀を気化させた後の水銀820Kgはどこへ行ってしまったのだろう?
これに関わった人々や周囲の環境はいかばかりかと想像される。
一般に無機の状態にある重金属(鉛、亜鉛、カドミウム、水銀、金)の腸における吸収は全体量の5%程度であるが、有機化合物と化合した状態では吸収率が90%以上になる。
熊本県水俣で起きた水俣病は有機水銀の中毒症状による忌まわしい事故であった。
これらは河川などで水底から浮かんでくるメタンガスなどと工場廃液中の水銀が反応して有機水銀ができあがり、それが魚などの体内に蓄積し、さらにそれを食べることで人間の体内に吸収された。
人間の体内に入ると、激しい中毒の他、腐食作用が大きく口から食道にかけて激痛が走ったり、腎臓で濃縮されて尿細管を痛め尿毒症を引き起こす。
また、水銀は、無機の状態でも肺から入ると80%くらいが吸収される。
塩化水
銀(Hg2Cl2)や硫化水銀(HgS)など1価の水銀化合物は水に溶けないので体内に吸収されず毒性を示さない(歯の治療に使われるアマルガムはこれを使っている)。
しかし、単体の水銀は常温で液体であり、わずかながらも蒸発をしていて、これが人体に吸飲されて0.1~0.5g 程度吸入されると中毒を起こすといわれている。
身のまわりには水銀灯、蛍光灯、マンガン電池(1g)、水銀電池(0.6g)、お椀などの朱塗りに含まれる硫化水銀(HgS)が使われている。
これらが捨てられて焼却場で燃やされると外部に漏れて蒸発するのでかなり危険である。
水銀は肺からだけでなく皮膚からも吸収される。
ちなみに、たばこ1本にも約1マイクログラムが含まれている。
成人の1週間の摂取許容量は210マイクログラム(メチル水銀)であるから210本、約10箱に相当する。
1日1箱以上のタバコを吸う喫煙者はかなりの水銀を体内にため込むことになる。
蛍光灯の演色性
蛍光灯の持つもうひとつの欠点に光の色合いが素直でない点があげられる。
青色・緑の発光成分が強いためカメラで撮影する場合に緑っぽい画像になる。
これは蛍光灯に使われている蛍光物質の蛍光特性からきている。
蛍光灯に使われる蛍光体は、ハロりん酸カルシウム(3Ca3(PO4)2CaFCl/Sb,Mn、励起波長180~320nm、発光波長370~720nm、ピーク波長480nm、580nm)が主に使われている。
りん酸カルシウムを主剤としてフッ素と塩素のハロゲンが添加され、アンチモンとマンガンで演色性の改善もはかられている。
この蛍光体は発光効率が良くて長期間安定しているため蛍光体として使われる大きな理由であるが、映像をおさめるカメラマンにとってはあまりありがたくない蛍光体である。
一般的な照明装置に使われる蛍光体の選定は以下による。
- ランプ内で発生する紫外線を吸収する材料であること
- 吸収した紫外線を効率よく可視光に変換できること
- 有毒でないこと。経年変化による特性の劣化が少ないこと
- 安価であること
蛍光体は放電空間に常に接しているため、光分解や水銀イオンと電子の衝突による劣化に対して強い特性をもち、温度上昇によっても安定した性能を発揮する必要がある。
こうした理由から、ハロりん酸カルシウムがもっとも適した蛍光体として採用され、粒径10~20μm程度で3層程度に塗布して使用されている。
なお、その他の蛍光体として、緑の発光をするけい酸亜鉛、青の発光をするタングステン酸カルシウム、桃色の発光をするほう酸カドミウム、青白発光をするタングステン酸マグネシウムがある。
一般に昼光蛍光ランプは空一面に薄雲がかかっているときの昼間の光(色温度約6,500K)であり、白色蛍光ランプは日出から約2時間後の太陽の直射光(色温度約4,500K)とほぼ同一の色温度の光を出す。
しかしながらこれらの蛍光灯は光分布では赤色部分の光の量が不足しているため着色物体の見え方は太陽光と異なってしまう。
蛍光灯の演色性が良くないのはこのためである。
そこで色の見え方を重要視する場所には演色性を改善した蛍光ランプが使われる。
演色性を改善したランプにはランプ形式の光源色を表すJIS記号(昼光色はD、白色はW、温白色はWW)の次にDLまたはSDLの記号が付けられている。
DL、SDLの記号のついた蛍光ランプでは、演色性は改善されるものの効率が10~30%
低下してしまう。
映画用蛍光灯照明
蛍光灯の持つ欠点である演色性とフリッカの問題を解決して映画・スタジオ照明用の蛍光灯が市販されている。
この蛍光灯を最初に開発したのが米国Kino Flo(キノ・フロ)社である。
キノ・フロ社は、米国カルフォルニア州SunValleyにある会社で映画照明装置メーカとして出発した。
地場産業である映画のメッカ、ハリウッドが近くニーズが製品を生んだとも受け取れる。
同社は色温度や光の安定をうるさくいう映画業界にあって蛍光灯照明で成功しているユニークなメーカであり、この製品でアカデミー賞技術賞も受賞した。
キノ・フロランプが使われた映画の作品に、『トルゥー・ライズ(True Lies)』、『Crimson Tide』、『Hoola Hoops Chips』などがある。
同社の成功の秘訣は、色バランスの良い蛍光灯ランプを開発したことにより、既存のハロゲンランプやメタルハライドランプとの相性が良く、蛍光灯のメリットである柔らかな面光源の利点が出たこと。
フリッカのでないバラストを開発したこと。
ランプ、灯具、バラストがとても軽く照明の設営が楽に行えること。
照明のためのアクセサリが完備していることなどがあげられる。
同社のキノ・フロランプはKF55とKF32の二種類があり末尾の数字が色温度を表している。
ランプサイズはそれぞれ11種類22本用意されている。
発光特性は赤色部にかなりリッチな発光特性があり可視光とほとんど変わらない発光分布を持っている。
カタログには演色性評価指数92の記載があった。普通の蛍光灯の演色性評価指数が65であり、演色性が良いといわれるメタルハライドランプが90であるので色合い的にはかなり優秀な光源といえる。
同社のランプ仕様には長さと径、それに口金形状の明記はあるものの消費電力が明記されてない。
これは、映画用のランプであるため発光分布をよくすることを第一命題としていて発光効率をかなり抑えているためと考えられる。
カタログの発光スペクトルを見ると蛍光灯特有の輝線スペクトルが極力抑えられている。
低い消費電力が売り物である蛍光灯の長所を矯めてまで演色性にこだわったのは映画業界ならではのことだと実感した。
彼らが開発したバラスト(安定器)は25kHzの発光周波数(小さなランプでは50kHz)でランプ点灯させるもので映画カメラ撮影でもフリッカの出ない電源になっているようである。
バラストの性能(入力電力:117VAC、5A)で1,200mm長のキノ・フロランプを4灯点灯できるため、1灯あたり100W程度の消費電力となる。
この4灯タイプのシステムで、照射距離1.2m、照射エリア(1.2×1.2m 程度)を1,840lxで照射する。
このキノ・フロランプを評価した映画照明関係者のコメントを紹介しておく。
「KINO FLOの光はとても良いと認識している。何度かフィルム(映画カメラを使用)でのテスト撮影を行い、演色性は十分にあることを認めている。
しかしながらこのランプはまだフリッカが出る。
電源部は高周波点灯用の安定器を採用してこれによりフリッカを抑えているがまだ不十分である。
60コマ/秒以上の撮影ではフリッカを生じる場合が多い。
この照明装置のフリッカを調べるため光センサを使ってオシロで観察すると50Hzのうねりが観察できた。
つまり電源部のDC成分に商用交流成分が乗っている。
インバータ回路に改善の余地がある。安定器が作る発光周波数をいくら高くしても、電源周波数に影響されるようでは撮影(特に高速度撮影)には不向きと感じている。
この装置のフリッカ率は4%位。映画業界で使われているメタルハライドランプでは0.9~2%位だからかなり悪いという印象を受けた。
映画業界の高速度撮影では今後この安定器の改良が望まれるだろう。」
彼のコメントによると、この装置は点灯周波数をkHzオーダにしてフリッカを抑えている設計思想のようであるが交流電源の50Hzのリップルが発光のための出力電源にそのまま乗っかっているため、高速度カメラなどの標準撮影速度以上の映画撮影で使うには慎重な検討が必要のようである。
ちなみに日本の蛍光灯メーカ(東芝ライテック)からも映画撮影用光源に耐える蛍光灯が市販されている。
高周波点灯をするHfユーラインシリーズの105Wタイプのランプ(FHP105EEN GU)で、管長1,150mmで11,000lmの発光をする。
このランプシステムは輝度が高く、6灯セットになったユニットではかなり強い照度を
得ることができる。