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X線光源とは│歴史、性質、応用まで

X線光源

特殊な光源について述べてみたい。

これらの光源は一般的にいって、それほど頻繁に使われるものではないが、特徴があるので紹介しておく。

その中でもX線光源は、比較的広い分野で使われている。

X線光源は、可視光で見ることのできない不透明体内部を可視化する場合に用いられる。

中性子光源はX線より強力な光源で、X線光源とは異なった透過能力を示す。

強力な透過性能を発揮する反面、水に吸収されるという特徴をもつ。

爆薬光源は、爆薬の起爆時に発生する強力な光を光源として利用するものである。

X線は、紫外線よりも短くガンマ線よりは長い(λ=数十~0.01nm)波長を持つ、粒子的な振る舞いが目立つ光源である。

光エネルギが高く直線性が強いため原子量の低い固体を透過する力を持っている。

医学分野ではX線を用いて人体内部を可視化する手法が盛んに行われている。

X線光源を用いた動画像応用として、心臓環状脈血栓の可視化に120コマ/秒のカメラを使ったX線装置が使用されている。

工業用では、短時間発光のフラッシュX線の市販化が遅れているため、多くの場合、連続X線で高速度撮影を行っている。

研究室レベルでは、単発発光のフラッシュX線光源、ビデオカメラに同期したパルスX線、10,000コマ/秒対応のフラッシュX線装置の開発が行われている。

大規模なX線発生装置は、日本原子力研究所や高輝度光科学研究センター(SPring-8)に設備がある。

X線は、電極に高圧(10kV以上)をかけ電子が陽極(ターゲット)に衝突することによって容易に発生する。

CRT(ブラウン管)でもわずかにX線が発生している。

強いX線を出すためには電極に高い加速電圧をかけ電流を多く流す。

X線光源を用いた撮影は、銀塩フィルムおよびX線ビジコンで直接撮影する方法があるが十分な感度が得られないので、変換板によってX線像を一旦可視像に変換し、その可視像を光増幅装置(イメージインテンシファイア)で増強する方法が一般的である。

X線の発見

X線は、有名なドイツ人物理学者、ウュルツブルグ大学教授のレントゲン(Wilhelm Roentgen、1845~1923)によって明らかにされた。

1895年11月5日のことである。

彼はこの発見で第一回ノーベル物理学賞を受賞した。

彼が発見したX線は、電子線から放射される光の研究をしている延長上で偶然に発見されたものといわれている。

彼は、高い電圧を加えた冷陰極線の実験の最中、黒い紙で覆っても目に見えない何かが放出され近くに置いた白金シアン化バリウムが蛍光を発していることを発見した。

その上、その放射線は壁を隔てた隣の部屋の白金シアン化バリウム紙をも発光させる力があることを発見した。

彼は当初、この放射線がどのようなものであるのかわからなかったので、数学でよく使う未知数に当ててX(エックス)線と名付けた。

その後、彼はX線についてさまざまな実験を行い透過度やその諸特性を調べ論文として発表した。

その論文は当時の科学者・医学者、ジャーナリズムの間で大センセーションを巻き起こした。

彼の論文には、X線は厚い木の板や1,000ページにわたる厚い本を透過する力を持ち、金属板ではその力は弱まって0.5mmの鉛ではほとんどその透過能力が無くなることが書かれてあった。

特に、彼の夫人の手の骨を透過撮影したX線写真は異常なほどの関心を呼んだそうである。

彼は一躍時の人となったが、研究の手は緩めずさらに研究を重ねX線の基礎を確立した。

X線の発見は、1896年のベックレルによる放射能の発見、1897年のJ・Jトムソンによる電子の発見の直接の契機にもなっていった。

1905年のアインシュタインの光量子説もレントゲンのX線の発見が大きな動機付けとなっていたのは想像に難くない。

X線は現代物理学の出発点を示す大きな出来事であったといえる。

X線の性質

X線は紫外線よりさらに波長の短い電磁波であるが、その性質は以下のようなものである。

 

  • 蛍光物質を光らせる…蛍光作用
  • 写真作用をもつ(銀塩を感光させる)…感光作用
  • 光と同じ直進性がある
  • 気体を電離する…電離作用
  • 物質を透過する…透過する能力は原子量の大きさに比例して弱くなる
  • 透過性の良い硬X線と透過の悪い軟X線がある
  • 対陰極(陽極)から放射されるが、放射は垂直ではない…帯電粒子の流れではない
  • 磁界や電界によって曲がらない…帯電粒子の流れではない
  • 結晶に当てると回折し干渉する…波である。波長は可視光より短い
  • 光と同様偏りを示す…横波である
  • 物質にあたると電子を出す…光電効果
  • 光子エネルギが高い
  • 細胞を破壊する…生理作用

 

X線は、光子エネルギが高いのでこれが原子に当たると電子を吹き飛ばしてしまう。

光が原子に当たると電子を励起させエネルギ準位を高める働きを持つが、X線はそのような作用よりももっと強い力学作用を持つ。

強いエネルギで電子が吹き飛ばされた原子は電子のない状態、すなわちイオン化された状態になる。

この働きで上のX線の性質の蛍光作用、感光作用、電離作用の項目が理解できよう。

X線は、高電圧を加えた電子線の衝突で発生する。

そのエネルギは以下の計算式による。

電子が電圧を与えられてターゲットに衝突する過程で、印加電圧V、電子の素電荷e、電子の質量m、電子の速度vとすると、電子の持つエネルギEは以下となる。

 

E = eV = mv2/2 
 e :電荷 1.602 ×10-19〔C(クーロン)〕
 V :印加電圧
 v :電子の速度
 m :電子の質量 9.1095 ×10-28〔g〕

この電子のエネルギがすべて光子に変わったとすると、

E = eV = hνmax = hc/λmin 
 h:プランクの定数 6.626 ×10-34 〔J・s〕
 c:光速 2.9979 ×108〔m/s〕
 λ:X線の発生最短波長
λmin = hc/eV

 

が導かれ、波長の短いX線を得るには高い電圧を電子に加えてやればよいことがわかる。

30kVの電圧で電子をターゲットに衝突させると上式より、最小0.04nm(=0.4Å)のX線が発生する。

 

X線発生管

X線発生管

X線を用いた撮影応用

医学分野ではX線を用いた人体内部の可視化が盛んに行われている。

しかしながら、X線光源を使った透視の初期は、医師やレントゲン技師が蛍光板からの非常に微弱な可視光像を直接見るという手法であったため、目が慣れる(暗順応)まで20~30分を要し、そのうえ微弱光画像での診断を強いられるため観察者にとっては非常に負担の大きな仕事であった。

X線診断では、X線から蛍光板を用いて変換された微弱可視光像をイメージインテンシファイア(光増幅光学装置)で増幅し、それをビデオカメラで撮影して診断するという手法が確立され発展した。

世界で最初にX線像増強管(X線イメージインテンシファイア、X線I.I.)を開発したのはオランダのフィリップス社で1952年のことである。

この装置は、真空管の一種で、入射面でX線像を受ける。

入射面は、蛍光板と光を電子に変換する光電面を抱き合わせてあり、X線→微弱な可視像→電子像という変換を行う。

光電面から放出される光電子像を電子管の中で電子増幅させ出力面の蛍光面で明るい可視光に再び変換するものである。

X線I.I.が開発された当初は入力蛍光面に粒状蛍光体が使われていたため、明るさも不十分で解像度も芳しいものではなかったが、1970年に米国バリアン社でCsI(ヨウ化セシウム)結晶蛍光板が開発されてからはX線画像が飛躍的に向上した。

X線は、点光源であり直線性が強くレンズによって屈折させることができないので、ターゲットより放射されるX線の立体角、被写体の位置で撮影エリアが決まり、被写体から蛍光板の位置で蛍光板の大きさが決定される。

点光源は実際にはある程度の大きさを持っているため、先鋭な像を得ようとするならば点光源をできるだけ小さくし被写体と蛍光板の距離をできるだけ近くする必要がある。

X線光源を用いた高速度カメラでの産業分野の応用としては、溶接現象の可視化が本格的なものであった。

1970年代に大阪大学溶接工学研究所にて電子ビーム溶接による金属溶融内部を連続X線を用いて300コマ/秒で撮影した報告があり、1980年代前半には日本原子力研究所でパイプ内部の流れの可視化を2,000コマ/秒で撮影した報告もあった。

遡って1975年、英国のロールスロイス社ではジェットエンジン内部のタービンブレードの破壊試験に、連続X線と第四世代のイメージインテンシファイア(ゲートによりシャッタ時間を短くできる光増幅装置)用いて10,000コマ/秒のX線撮影を行った報告もなされた。

パルス発振によるX線光源は、1995年に試作開発が行われ、100,000コマ/秒のX線高速度撮影システムが作られた。

この装置は、X線を発生する電子管に高速度カメラからの同期信号をグリッドバイアス電圧として入力させ高周波のパルスX線を発振するものである。

X線I.I.も従来連続モードであったものをパルス駆動とし、高速度カメラからの同期信号でパルス駆動させ光量効率と動的解像力を向上させた。

このシステムは、100kV、1mA、0.5μFのコンデンサを使って熱陰極線型グリッド変調X線電子管でパルスX線を発生させた。

電圧は必要に応じて50kVより5kV単位で設定できるようにし、X線のシャッタリングは10~100μsまで可変設定とした。

X線パルス発振周波数は、現状の技術では32,000Hzまでが限界であるため、これ以上の撮影速度では、X線イメージインテンシファイアによって100,000コマ/秒の対応を図った。

この装置は、現在の所、有限パルス(1~32パルス)の発振しかできず長時間のパルス発振は不可能である。

X線イメージャは、口径150mmのヨウ化セシウムでできており、100,000Hz、最小ゲートパルス1μsとなっている。

さらに光増幅が必要な場合に備え、ゲートX線I.I.に可視光用イメージインテンシファイアを接続できるようにして、ここでさらに100~10,000倍の光増幅と2,000,000コマ/秒までの撮影速度対応、100ns~1msのゲート時間が設定できるようになっている。

この装置は、10,000~2,000,000コマ/秒の高速度カメラ用として開発し、エポキシ樹脂カートリッジ内で起きる水の爆発現象の可視化用に使用された。

エポキシカートリッジ内の水と膨張空気を区別するため水に造影剤を添加して可視化を行った。

X線光源を用いた撮影のシステム

X線光源を用いた撮影のシステム