光のいろは

光を基礎から知るブログ

キセノンランプ(クセノンランプ)とは

キセノンランプ(クセノンランプ)

キセノンランプは、メタルハライドランプが登場するまで太陽に最も近い白色光源(色温度5,000~6,000K)として重要な役割を担ってきた。

メタルハライドランプの性能アップによって徐々にその役割を譲りつつあるが、直流点灯による光の発光安定性(フリッカが出ない、電流を変化させても光量の変化だけで光の色合いのバランスがくずれない)、連続した波長発光など優れた特性を持っている。

キセノンランプは、キセノンガスの電気放電発光を利用したものである。

石英ガラス管中にキセノンガスを封入し放電を起こすと紫外から赤外にかけて太陽光のスペクトルに近似した発光が得られる。

ただし点灯にはキセノンガスが封入された電極間でアーク放電を起こさせなければならず、始動には数KVの高圧電源が必要である。

放電が開始されれば高圧電源は必要なくアーク放電に必要な電圧と電流を供給する安定器によって放電を維持し発光を続ける。

キセノンランプはアーク放電であるため点光源(輝度107cd/m2)にしやすく高輝度も得られ、その輝度は太陽光に近い。

従来映像記録の観点からは最も適した光源として使われてきた。

発光効率は20~40lm/Wと比較的高い。

ランプの大きさは100Wから数kWまでありファイバライトガイドの光源、映写機の光源、OHPの光源、大型サーチライト、模擬太陽光として使われてきた。

このランプは高輝度・点光源であるため映像記録分野でも高速度カラー撮影用、シュリーレン光源用として使われている。

ただ、熱もかなり出るため熱に弱い樹脂やガラスなどに長時間(高速度カメラ撮影では10秒以上)照射するのは危険である。

ランプは、ウシオ、浜松ホトニクス、三菱電機、OSRAMなどが製作している。

また、米国ILC社のセラミクス一体型キセンノンランプは、放物面鏡の焦点に放電電極を配しているため、高輝度の平行光束が得られる。

このランプは、小型探照灯(サーチライト)用として開発され100~500m遠方を照射することができる。

ショートアーク型キセノンランプ

ショートアーク型キセノンランプ

シールドビーム型キセノンランプ

シールドビーム型キセノンランプ

シールドビーム型キセノンランプの照度表

シールドビーム型キセノンランプの照度表

このランプの照度表を上に示す。

800Wのランプでは、3mの照射位置からでも50万lx以上の照度が得られる。

50万lxの照度は真夏の晴天での最高照度の3倍以上の明るさである。

光も強いがそれ以上に熱も大量に出るので取り扱いには注意が必要である。

キセノン(クセノン)[Xe]元素

光を扱っていると、キセノン(クセノンと言う場合もある、アメリカ人はゼノンと発音している)という元素を良く耳にする。

キセノンというのはどういう元素なのであろうか。

放電管にはキセノンの他にヘリウムやネオン、アルゴン、クリプトンなどの元素を良く耳にする。

これらの元素は極めて性質が似た元素である。

化学の本などで元素の周期表を見ると一番右端の欄の「0」族というところにこれらのガスが不活性ガスとして掲載されている。

大気中にほんのわずかにしか存在しないので希ガスとも呼ばれている。

不活性元素というのは化学的に安定していて他の元素と化学結合せずに単体で存在している元素のことをいう。

これらの元素は電気的に安定しているため通常の状態では他の元素と反応することはない。

これらの元素に高い電圧をかけて原子の最外核の電子を取り出したり電子が入り込んでも、すぐに安定したもとの原子の状態に戻ろうとして、もらった電子からのエネルギを光エネルギに変える。

この性質を利用してガス放電発光の封入ガスとして希ガスが使われている。

原子量の軽いヘリウムやネオンは放電が起きやすいのでネオンサイン用ランプとしてよく使われる。

また、光源としてではなく電子管の放電を促すためにバッファガスとしてネオンガスがよく使われる。

ちなみに白熱電球に封入される不活性ガスとして使われているキセノンやクリプトンの目的は、原子量が重く熱対流が起きにくい性質を利用してジュール熱で熱せられたタングステンフィラメントが回りの不活性ガスの熱対流によって蒸発するのを防ぎ、フィラメント寿命を長くするためである。

キセノンやクリプトンを封入した白熱ランプではガス自体が発光することはない。

また余談ではあるが、原子番号の若いヘリウムやネオンは原子が軽いため、励起される電子が基底状態に戻るときの量子エネルギは数通りしかなく、この量子エネルギで決まる光エネルギは特定の発光波長しか出さないため光学的な共振を起こしやすいレーザガスとしてヘリウムやネオン、アルゴンが使われた。

キセノンは比較的重い不活性ガスであるためたくさんの電子を持っていてそれによりいろいろな光を放射する。

キセノンの発光が太陽光の発光に近いことから理想の白色光源として使われ、キセノンアークランプやフラッシュランプ、ストロボランプに多用されている。

キセノン(Xenon)は1898年にイギリスのラムゼーらによって希ガス元素を発見していく過程でアルゴン、クリプトン、ネオンについで液体空気の分留から最後に発見された。

キセノンランプは1933年頃からドイツで研究され、1944年シュルツ(R. Schluz)よって実用化された。

日本では1952年頃から製作され、主としてフラッシュランプとして用いられた。

キセノンフラッシュランプ(ストロボ)

キセノンフラッシュランプは、短時間発光光源である。

今まで述べてきた光源は熱発光や放電発光、および蛍光発光する連続光源であるのに対し、キセノンフラッシュランプは1/1,000秒から1/1,000,000秒(1ミリ秒~1マイクロ秒)の短時間発光光源である。

フラッシュランプの発光は、大気中の放電であるカミナリによく似ている。

しかしカミナリは発光時間が数ミリ秒から数十ミリ秒と長い。

短時間発光を可能にしたのがキセノンガスである。

キセノンの良好な放電特性を利用してキセノンガス中に配置した電極間で高圧パルスを印加し短時間発光を行う光源がキセノンフラッシュランプである。

キセノンフラッシュランプで捉えた瞬間写真

キセノンフラッシュランプで捉えた瞬間写真

キセノンは不活性ガスであり放電を起こしやすい気体である。

また可視域にわたり潤沢な発光特性を持っているため白色光源用ガスとして使われた。

このキセノンガスに高圧パルスを与えて短時間放電を起こさせたのがキセノンフラッシュランプである。

瞬間発光光源の歴史

キセノンフラッシュランプは、一般的にはフラッシュとかストロボという言い方をする。

キセノンフラッシュランプが科学技術に寄与した功績は多大なものがある。

キセノンフラッシュランプの持つ適度な光量と短時間発光、そして高い繰り返し発光によって撮影された写真から数多くの神秘で新鮮な情報が提供された。

それまでの閃光光源といえば1900年初頭、マグネシウムを金属皿に適量に盛り電気点火させるマグネシウムフラッシュが一般的であった。

しかし、マグネシウムは光量が多い反面、1/100万秒という短時間露光には適していなかった。

学術的な用途には短時間で発光する光源が必要で、この目的のためにキセノンフラッシュランプが発明されるに至るが、それ前までは大気中の火花放電による発光装置が使われていた。

火花放電による高速度写真撮影に初めて成功したのは英国のWilliam Henry Fox Talbotで、1851年のことである。

彼はライデン瓶に蓄えた電荷を空中で放電させ1/2,000秒(500μs)の発光を作り、高速で回る回転板にLondon Times紙を取り付けて回転させ、見事に静止画として写真に収めたといわれている。

そのとき写真撮影のために使用した感光材は「amphyitypes」と呼ばれたもので、ガラス板に卵白と水に硝酸銀を混ぜて塗布したものであった。

その感光材の感度はASA4相当(現在のフィルムの1/100)であった。

この感光材とF32の口径比を持つレンズ(現在のレンズの1/500の明るさ)をカメラに取り付けて撮影がなされたといわれている。

現在のシステムに比べると1/50,000倍の暗さである。

Talbot、Mach、Cranz、Boysらが始めた火花瞬間写真撮影法、それに用いた高圧コンデンサに電荷を蓄えて空中で火花放電を起こさせる瞬間光源は、シュリーレン撮影法を確立し、高速飛翔体の研究(当時は弾丸が主流)に大きな功績を残した。

キセノンフラッシュランプの発明―エジャートン博士―

空気中に電極をおいて高電圧で放電させる火花放電は、光が弱いため広い撮影範囲を照射する用途には不向きであった。

そこで発光しやすい気体をバルブの中に封入して高電圧をかけて気体放電させる研究が行われた。

1930年代に米国MIT(マサチューセッツ工科大学)のエジャートン博士(Dr. Harold E. Edgerton、1903~1990)の手により安全で使いやすいガス封じ込めフラッシュ装置が発明されると、これが一気に閃光光源の主流の座を占めるようになった。

キセノンフラッシュランプの歴史は、エジャートン博士(とドイツのフリュンゲル= Frungel)の歴史といっても過言ではない。

おもしろいことに、初期の頃のElectric Flashはキセノンではなく水銀を用いていた。

当時キセノンガスはまだ一般的でなく水銀の方が使いやすく電気回路も作りやすかったからと考える。

しかし、水銀蒸気は、温度と蒸気圧によって発光輝度と発光時間がバラつくため適正露光を得るのに随分と骨が折れたそうである。

エジャートンは水銀に変えて希ガスのアルゴンを使ったフラッシュ装置を開発し、最終的にキセンノンを封入したキセノンフラッシュランプ装置に落ちついた。

キセノンにしたのは、発光スペクトルが太陽光に近く、発光効率も良く、またガスの熱容量が小さいため短時間発光(サブマイクロ秒)が可能であったためである。

彼は適切な発光ガスを特定するために、アルゴン、ネオン、クリプトン、水素、窒素、炭酸ガス、水銀についてさまざまな実験を行っている。

前述したようにキセノンガスの発見は1898年であり、キセノンランプの開発が1933年であることを考えると、エジャートンはキセノンランプ(連続発光)の開発と同時期にキセノンガスを使ったフラッシュランプの開発をしたことになる。

エジャートンが発明したフラッシュランプはその後、Eastman Kodak社によってKodatronの商品名で米国東部のスタジオで使われ始めた。

1940年、プロカメラマンJoe Costaが携帯用のKodatron portableをひっさげてプロボクシングJoe Luisのファイティングシーンを撮影し、それを「Life」誌に掲載した。

短時間露光を可能にしたスポーツの瞬間写真は今までにないスポーツ報道の一面を切り開いて行くことになる。

その後エジャートンは、科学者として以上に、キセノンフラッシュランプを使った有能なカメラマンとして活躍した。

フットボールを蹴る瞬間にボールが激しく歪んで靴にのめり込んでいる瞬間写真や、棒高飛びの多重露光写真などのスポーツ瞬間写真、雑誌National Geographicに発表したハミングバードの羽ばたきの瞬間写真など次々にセンセーショナルな作品を発表した。

彼が取り組んだストロボには

  • 数百KHzの高周波数発光ストロボ
  • 数10nsパルスの極短時間発光ストロボ
  • ストロボを使った海底写真撮影
  • ストロボを使った夜間の航空写真撮影(地上高1.6kmより1km四方を撮影)
  • 顕微鏡用マイクロギャップストロボ
  • 航空施設用ビーコンストロボ

などがある。

彼の偉いところは、自分でストロボを発明し、それを縦横無尽に駆使して新しい写真文化を開拓したことである。

エジャートンはまた、自ら会社(EG&G社)を興し特殊なストロボバルブや電気素子を開発してその普及に務め、大きな功績を上げている。

EG&G社は、創設者の3人の頭文字、Harold Edgerton、Herbert Grier、Kenneth Germeshausenからつけられた。

現在は、フラッシュバルブならず光電素子、CCD素子などユニークな製品を開発する企業として知られている。

キセノンフラッシュランプ(ストロボ)の応用例

マイクロ秒オーダの短時間露光を持ち、かつ太陽光に近い白色光源が得られるキセノンフラッシュランプは、写真の世界のみならず、科学技術発展に大きな足跡を残した。

高速現象を静止画として凍結する画像技術は我々に次々に新しい情報を与えてくれた。

また、この光源の持つ高い繰り返し発光は周期的に繰り返される現象と時間タイミングを合わせると、あたかも現象が静止しているように見える。

たとえば、1秒間に30回転する扇風機があり、これに1秒間に30回の割合で発光するストロボを照射させると、高速で回転している扇風機はあたかも静止したように見える。

また、ストロボ発光周波数を回転体の回転数よりわずかにずらすとストロボ発光によって写し出された回転体はゆっくりと回転しているように見える。

ストロボに任意に発光する周波数コントローラをつけて被写体に照射すれば回転体の回転数が求まるだけでなくスローモーション画像として見ることができる。

このストロボの原理を利用して高速で印刷される印刷物の位置出しとかガソリンエンジンの点火時期の調整などに利用されている。

また、流れの可視化分野でのストロボの貢献度は高く、シャドウグラフによる衝撃波の可視化ではマイクロギャップストロボ(ストロボバルブが小さく放電電極が短いため点光源が得られる)が使用されたり、キャビテーションのメカニズムを解明するため発生信号をトリガにしたストロボスコープが使われている。

この他、フラッシュ光源の発光ピークエネルギが高いことから、YAG、ルビーなど固体レーザを励起するための光源としてもこのランプが使われている。

1960年米国ヒューズエアクラフト社(Hughes Aircraft)のメイマン(Theodore H. Maiman)が最初のレーザを固体ルビーで発振させたとき用いた励起光源が螺旋状のキセノンフラッシュランプであった。

新しい光を作り出すためにキセノンフラッシュランプは重大な仕事をしたのである。

キセノンフラッシュランプの性能

キセノンフラッシュランプは短時間発光光源であるため、通常の連続光源のような光の強さを表す単位では言い表せないことが多い。

1/10,000秒程度で発光しているストロボのピーク発光はかなり強い値となっている。

1/10,000秒の間に通常の露光時間(1/30秒)分の光が発せられるため、ストロボ光は3000倍以上の強い光を放つことになる。

キセノンガスによる閃光発光は、発光原理のところでも詳しく触れるが基本的には山形の形状をした放電発光である。

これはキセノンガスの放電特性による。

したがって発光時間は山形発光のピークから半分に下がった値の時間の半値巾で示すことが多い。

キセノンフラッシュランプの性能を決めるのは、以下の5つである。

(1)入力エネルギ ← ストロボランプに加える電気エネルギ
通常コンデンサに蓄えられたエネルギ(CV2/2)で表す。入力エネルギが多いほど大光量発光が期待される。

(2)発光時間 ← ストロボランプの発光時間
通常の発光は山形発光であるためピーク発光の半分の輝度時間(半値巾)で表す。

(3)放電ギャップ長 ← ストロボランプの放電を行う電極間距離
ギャップが小さいものほど短時間発光に適するが大光量発光は不適。ギャップが小さいランプは点光源として使用。

(4)発光周波数 ← ストロボランプの放電発光を繰り返す1秒間あたりの発光数
コンデンサの充放電の性能、ランプの放電特性(放電間ギャップ、熱特性)から発光周波数性能が決まる。一般的にクセノンフラッシュランプの発光は1,000Hzが限界。

それ以上になるとクセノンガスが冷えないため連続放電になる。

(5)寿命 ← 100万回発光などと発光数でおよその寿命を表す
ユーザの立場から要求する性能は、入力エネルギが大きくて発光時間が短く、放電ギャップが短くて寿命が長いものが求められるが、現実はこのうちのどれかが犠牲になる。

フィルムカメラ用のストロボは、広い面積を照射させるため放電ギャップが広く発光時間は約1msである。Autoストロボでは、ストロボに取り付けられたフォトセンサが一定の光量を検知し一定光量に達するとサイリスタ(トランジスタ)で発光回路をカットする仕組みになっている。

このストロボでは光量を時間調節によって制御するという方式を採用している。

G.N.(ガイドナンバー)

発光エネルギの大きさは一般的には、G.N(. ガイドナンバー=照射距離(m)×カメラレンズ絞り)で表され、G.N.20~56程度のストロボが容易に入手できる。

工業用のストロボは一般の写真撮影用のストロボフラッシュとは違い、高周波発光を持つものが要求され、照射する被写体も高速度で動くものが多いため、発光時間が0.1~10μsで発振周波数300Hz程度のものが要求される。

また、特殊なストロボとしては、発光時間が11msと長く、入力エネルギ1,100Jを持つ矩形波(山なりの発光波形ではない)発光ストロボが米国の計測メーカより製品化されている。

このストロボは点光源ではないが、発光が強力で発光時間が長く発光がフラットであるため、ドラム式フレーミングカメラ、イメージコンバータカメラなどの記録枚数が少ない高速度カメラ用の連続光源として使用されている。

キセノンフラッシュランプの発光原理

下の図は、基本的なストロボ回路図である。

キセノンフラッシュランプ発光回路

キセノンフラッシュランプ発光回路

フラッシュランプは1/10気圧程度のキセノンガスが封入された真空管で、放電発光を起こす関係上ランプの両極(アノード→カソード)間には高圧がかかる。

したがって、バッテリもしくは直流電源は放電を起こすに足るだけの電圧Eを加える必要がある。

放電電圧Eは、250~500V程度が必要である。

フラッシュランプ開発当時は高圧バッテリでこの電圧を作っていたが、最近はDC-DCインバータを使って6Vの乾電池から昇圧させて希望の電圧を作っている。

コンデンサCにはこの電圧でRcの抵抗を介して電荷が蓄えられる。

Rcを小さな値にすれば速く充電できる反面、コンデンサに大量の電流が流れ込むため電気的に丈夫なコンデンサを使わなければならない。

電圧Eで蓄えられたCの電気量がランプ入力エネルギとなる。

この電気エネルギが発光エネルギに変わる。

発光効率は約30%程度といわれている。

 

ランプ入力エネルギ=CE2/2〔J〕

 

フラッシュランプは、コンデンサに印加している電圧Eだけではランプの放電を起こすだけの力がないので、別の電気回路によってランプ内のキセノンガスに高電圧をかけ(トリガをかけ)、ランプ放電を起こしやすくする。

これがトリガ電極というもので、コンデンサC1に貯められた電荷をトリガスイッチを閉じることによりトリガコイルTに流し、このコイルで昇圧してランプ中のキセノンガスをイオン化し放電を起こしやすくする。

トリガコンデンサC1に貯えられる電荷はそれほど大きい必要はない。

のR1とR2の抵抗比で分圧されたバッテリ電圧[E・R2/(R1+R2)]で電気が貯えられ、これがトリガスイッチ(X接点)を閉じることによりC1のコンデンサが一気に放電され、スパークコイルを昇圧させる。

トリガ電極にかかる電圧は5~10kV程度である。

このトリガ電極だけでもキセノンは十分にイオン化する。

エジャートンの本にはトリガ電極だけでキセノン管のキセノンが励起されて光っている様子が写真入りで説明されている。

こうしてフラッシュチューブ内のイオン化されたキセノンガスは抵抗が低くなるため、メインコンデンサCから蓄えられた電気が流れるようになり、放電が起きるようになる。

キセノンガスの放電は、キセノンガス圧、放電管距離、放電電圧、ガス温度によって特性が変わる。

キセノンフラッシュランプの一般的な発光原理は以上に述べた通りであり、これを写真撮影に使うため撮影目的に併せたキセノンフラッシュバルブの開発、電源の開発が行われた。

キセノンフラッシュランプ(ストロボ)―明るさの単位―

前項でも述べたように、ストロボの明るさは一般的な照度では言い表しにくい。

その理由は、ストロボは1/100秒から1/10,000,000秒程度の単発発光であるため連続光で扱うルクスなどの表現は取りにくく、以下に示すような発光量を目安にしたエネルギの単位で表すことが多い。

(1)入力エネルギ(J=ジュール)

この単位は、「キセノンフラッシュの性能」でも述べたように、ストロボ装置のメインコンデンサに蓄えられた電荷量であり、

 

ランプ入力エネルギ=CV2/2 

 

で表されるジュールという単位である。

蓄えられるエネルギ量は使用するコンデンサの性能に左右する。

また高電圧、大容量のコンデンサを用意したとしても、そのエネルギを受けて発光するストロボバルブが高圧、高電流に耐えなければならない。

この両者の適切な選択によって耐久性を持った実用的な装置ができあがる。

一般的に入力エネルギが高いほど、キセノンフラッシュランプは明るく光る。

電気エネルギが大きいと熱エネルギも多くなり発光時間も長くなる。

実際の所、熱容量が小さいキセノンといえども高圧をかけられるとガスはプラズマとなって発光し、コンデンサに蓄えた充電電圧が下がっても、ランプ内部の温度が下がらずに発光は弱いながらも尾を引いて持続する。

また、入力エネルギが高いランプは総じて放電距離が大きく、大きなランプとなる。

(2)発光時間(秒、ミリ秒、マイクロ秒、ナノ秒)

ストロボの特徴は、短い発光時間にある。100nsから10msに渡る各種の発光特性を持つストロボが開発されている。

ここで言う発光時間とは、発光時間すべてを言うのではなく、ストロボのピーク発光の半分の発光輝度を持つ時間(半値巾時間)で言い表す。

したがって、実際の発光は、カタログ値で述べられている時間よりも2~3倍程度長く発光している。

しかし、オートカットオフ機能をもったストロボでは発光の途中で、電気回路によってランプに流す電気を強制的にカットオフし、グランドに落とすものがある。

このようなストロボでは短い発光を得ることができる。

35mmスチルカメラ用で販売しているオートストロボなどは、ストロボに光量を検知するフォトダイオードが組み込まれていて、全光量の1/2、1/4、1/8、1/16になると発光を止める機能がある。

この機能を使うと、尾を引いた発光部分がカットされ発光時間が短くなる。

(3)発光間隔(Hz、サイクル)

ストロボの大きな特徴に多重発光(高周波発光)がある。

1秒間に10回以上の発光を行うと速い動きの被写体が多重露光によって浮き上がって見えたり、また、回転運動体などをタイミング良く発光させると回転体があたかも止まっているように見える。

たくさんの発光を行うには、充電コンデンサに充電・放電を繰り返すに耐える性能を持っていることと、速く放電し、速く充電できる回路、高周波発光に耐えるランプ性能であること、たくさん発光しても壊れない耐久性のあるランプであること、などが求められる。

ランプの発光性能からキセノンストロボの発光周波数は200Hzが限界といわれている。

高速度ビデオ用に開発したストロボには500Hz、1,000Hz用のものがある。

また、特殊なもので100,000Hzの発光をするストロボが、第二次戦後ドイツのインパルスフィジック社の手により開発され、ストロボキンという名称で市販化された。

この装置は高周波発光を可能にしたが20発程度の限られた発光回数であり、コンデンサを主体とする電源部は大型ラックに設えられランプも大型のものであった。

このシステムは主に航空工学の衝撃波、翼の研究に使われた。

(4)G.N.(ガイドナンバー)

ストロボの発光量を、撮影条件の観点から数値化した値である。

ストロボの光量をレンズの絞り(Fナンバー)と照射距離(m=メートル)の積で表したものである。

G.N.30と呼ばれるストロボは、ISO100のフィルム感度条件で、照射距離7.5mの距離で絞りF4の設定で適正露光が得られる。

照射距離3.8mではレンズ絞りF8という具合に使う。

 

G.N.=F×D 
 F:レンズ絞り
 D:ストロボ照射距離〔m〕

 

G.N.は、明るさが距離の2乗に比例して暗くなるという法則を前提としている。

この法則は点光源が前提であるので、点光源でないストロボの近距離撮影(2m以下)では条件を満足しなくなる。

また、G.N.はフィルム感度がISO100のときの値で示されていることが多いので、フィルム感度がISO200になるときには値を1.4倍に、ISO400のときには2倍にする必要がある。

 

G.N.=F×D×√(100/ISO)
 ISO:フィルム感度

 

(5)BCPS、CPS

古いストロボのカタログを見ると、BCPS、CPSのような値に出会う。

これはBeamCandela/seconds、Candela/Secondsの略であり、ストロボの発光量全体を
カンデラで表した値である。

ストロボメーカが自社で測光器を使って測定し、出荷していた。ユーザはこの値を見て適切な露光条件を決めていた。

今はG.N.に置き換えられてあまり使われなくなっている。

BCPSは反射鏡などを含めた総合的な値で、CPSはランプの裸の値である。

したがって、BCPS/CPSの比が反射鏡効率比を示すことになる。ちなみに、このBCPSとG.N.には以下の関係式がある。

G.N.=√(BCPS×ISO/C)
 ISO:フィルム感度
 C:定数(160~270)

フラッシュ発光特性曲線

フラッシュ発光特性曲線