光のいろは

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ナトリウムランプ(高圧・低圧)の解説

ナトリウムランプ

ナトリウム蒸気の放電発光を利用した放電管である。

ナトリウムの放電は、D線(589.0nm、589.6nm)と呼ばれる黄色の輝線スペクトルが強く放射され、ナトリウム蒸気圧を上げていくにしたがってスペクトルが可視域全体に拡がり黄白色の帯スペクトルとなる。

発光効率が130lm/Wとランプの中で最も高効率であるため水銀灯と同様に街路灯、広域照明設備に使われている。

ナトリウムランプは発光効率がとても良いことが早くから認められていたが、ナトリウム自体扱いが難しい金属で危険でもあるため、高温でナトリウムに耐える材料が開発されるまでは実用化の道は遠かった。

考えてみると水銀といいナトリウムといい、身近な光源には危険な金属が使われていることを思い知らされる(もっとも、IC素子やLED、バッテリなどにも、ヒ素、カドミウムなどの重金属が使われているのでこれは光源に限ったことではないのであるが)。

ナトリウムは、柔らかい金属で97.81℃で液体となり882.9℃に沸点を持つ。

水素、リチウム、カリウムなどが仲間でIA族に属する極めて活性の高い金属である。

イオン化傾向も高く他の元素と反応しやすく単体で自然界に存在することは希である。ナトリウムを単体で遊離すると活性が強いためイオン化されやすく、また、

融点、沸点が低い金属であるためその蒸気が電子を受けるとたやすく励起され光を放出する。

ナトリウムは融点が低く液体になりやすく熱中性子を吸収しやすいことから原子炉の冷却剤として使われている。

金属ナトリウムは水と激しく反応するために取扱がやっかいであるので、安全が考慮されながらナトリウムランプの完成を見た。

1932年オランダのホルスト(G.Holst)によって低圧ナトリウムが初めて作られ急速な発展を見るにいたる。

普及をみたのは1957年からである。低圧ナトリウムランプは演色性が悪いので、ナトリウム蒸気を高め、演色性をよくする研究が行われた。

高温高圧に耐えられる半透明セラミック管を用いた高圧ナトリウムランプが1960年に米国のGE(ジェネラルエレクトリック)社から発表され、数々の改良が試みられ高効率光源として確固たる位置を築き上げるようになった。

アメリカ、ヨーロッパでは高速道路、一般道路の街路灯がすべてナトリウムランプに徹底されているのには驚かされる。

国民性の違いであろうか。

日本では四六時中点灯しているトンネル内とか、霧が発生しやすい御殿場あたりでナトリウムランプが使用されている以外、あまり見かけない。

市街の街路灯は水銀灯やメタルハライドランプの使用が多く見受けられる。

トンネル内や、霧の発生しやすい所にナトリウムランプが使われるのは、ナトリウムランプの発光波長が590nmと比較的長い波長であるため排気ガス中の煤煙の粒子による光の散乱・吸収が少なく、空気の透過率の低下に対する視認性の低下が抑えられるためといわれている。

ランプは200W、360W、660W、940W程度のものが使われている。

360Wのランプで50,000lmの発光があり寿命が12,000時間である。

これは、蛍光灯37Wクラスの3,000lmの約17倍、寿命が約1.2倍となっている。

寿命が12,000時間であるということは、たとえば街路灯にこのランプを使用して夜6時から翌朝6時までの12時間点灯したとすると、1,000日(約2年半)で寿命となるために2年半ごとに交換しなければならない。

トンネル内は24時間の点灯をしているから500日(1年4ヵ月)ごとの交換が必要になる。

こうした交換作業の煩わしさから先に述べた無電極放電ランプ(寿命60,000時間、ナトリウムランプの5倍)が使われだしてきている。

映像記録から見たナトリウムランプの利用価値は極めて低い。

レンズを作る際には平面性を検査するためにオプティカルフラットと呼ばれる光学平面ガラスとD線を発する(低圧)ナトリウムランプを用いて製作レンズの出来具合を検査している。

また、昭和30~40年代の野球場のナイター設備は、水銀ランプの緑色輝線を和らげるためナトリウムランプを分散配置させ、これを「カクテル光線」と称して使用していた。

しかし、カラーテレビ放送の台頭と共にこれらのランプでは色合いが悪いため昭和50年あたりからはスポーツスタジアムには高演色水銀ランプやメタルハライドランプが使われるようになった。

ナトリウムランプには以下に述べる低圧ナトリウムランプと高圧ナトリウムランプがある。

低圧ナトリウムランプ

発光管はナトリウム蒸気に侵されない耐ナトリウムガラスが使われ、この中に金属ナトリウムと始動補助用のネオン・アルゴンガスが封入されている。

発光管は通常ランプを小型にするためU字型になっていて数カ所に突起を設けそこに金属ナトリウムを溜めるようになっている。

この突起により点灯中のナトリウム蒸気圧は管内で均一となり、同時にナトリウムが管壁に広く付着して光束が減退するのを防いでいる。

ナトリウムランプの発光効率が最大となるようにナトリウムの蒸気圧を4×10-3mmHgとし、ランプ管壁温度を260℃に保つ工夫がなされている。

ランプ外管は伝導、対流による熱損失を防ぐため真空とし、また熱放射を防ぐため内面に可視光を透過する赤外線反射膜を塗布して発光管を保温し保持している。

低圧ナトリウムランプの発光は、波長589nm、589.6nmの黄色のD線で、効率は実用光源中最高(175 lm/W)である。

単色光であるため演色性は悪いが、色収差がないため明暗の対比、形の識別に優れ、また、D線は煙霧中の透視性が優れているため検査用光源、トンネルや海外沿いの道路などのガスや霧の発生しやすい所の照明に使われている。

高圧ナトリウムランプ

高圧ナトリウムランプの蒸気圧力は100~200mmHgで、大気圧よりは低い圧力である。

ナトリウムランプの仕様

ナトリウムランプの仕様

ナトリウムを蒸気にさせるため管部は高温となりナトリウム蒸気は1500℃、管端部は600~800℃となる。

ナトリウムの蒸気圧を上げていくとD線の自己スペクトルが吸収されて減少し、その両側に連続スペクトルからなる発光が見られるようになり白色光に近くなる。

発光管は高温・高圧のナトリウム蒸気に対して化学的に安定で、しかも可視光に透過性のあるアルミナセラミック管が用いられ、金属ナトリウムと一緒に始動補助用のネオン・アルゴンガスが封入されている。

このタイプは始動電圧が低いために水銀灯用の始動回路が流用できる。

ネオン・アルゴンガスの代わりにキセノンガスを封入したものは始動電圧が2,000V以上と高く、専用の始動安定器が必要となる。

高圧ナトリウムランプは、白色光として効率が最も高く寿命も長い。

また光束低下の少ない経済的な光源である。

演色性は、色温度が2,000~2,100K、演色評価指数25とあまりよくないが、白熱電球に比較的似ているため屋外、工場、体育館などの屋内照明に用いられている。

ナトリウムの蒸気圧を上げると演色性が向上する反面効率が低下する。

ナトリウムランプは始動して安定するまでに約7分程度かかる。

再始動は消灯後約1分で再始動する。