ヘリウムネオンレーザー(He-Neレーザー)
比較的新しいレーザーの世界にあって、半導体レーザーの出現により古典の部類に属するようになった光源である。
1960年12月、最初のレーザーがルビーを使って発振されたそのわずか7月後のクリスマスに、ベル電話研究所のA.Javanによって開発された。
ガスレーザーでは最初のレーザーとなった。また、ヒューズ社のメイマンの発明したルビーレーザーが単発のパルス発光であったのに対して、ヘリウム・ネオンレーザーは連続で発振するレーザーであった。
ヘリウム・ネオンレーザー光の発振そのものはネオンのもつエネルギ遷移のλ=632.8nmを増幅させたものであるが、ネオンだけの放電、増幅では発振できないのでヘリウムの手助けでネオン原子を励起させ反転分布を増強して発振にまで導いている。
ヘリウムとネオンガスの混合比率は、He:Ne = 5~10:1である。
このレーザーは、レーザー発振のゲインが低く発振条件が厳しいため、反射ミラーに精度の良いものを採用したり、放電管中に光を何度も往復させなければならないため、光の往復よってガラスの反射損失を防ぐブリュースター窓が採用されている。
したがってヘリウムネオンレーザーのエネルギ効率(光出力エネルギ/入力電気エネルギ)は、0.01%~0.1%と大変低いものである。
10mWの光を取り出すのに100Wの電気を必要とする計算になる。
ブリュースター窓
ヘリウム・ネオンレーザーを代表とするガスレーザーは、共振長の石英ガラスチューブ内に希ガスを封入し放電を起こさせ、チューブの両端に光学研磨された反射ミラーを置きキャビティを形成し、光学的共振を起こさせるものである。
したがって、これらのレーザーは大きく分けてガス放電のための電源と、ガス放電のためのキャビティが必要である。
キャビティには放電を起こさせるためのガスと電極、反射鏡が必要である。
ガス放電によるキャビティに設けられる反射鏡は、ガスチューブに一体型になった内部ミラー型と、キャビティとミラーが別になった外部ミラー型がある。
内部ミラー型は取り扱いが楽でミラーの調整が不要である。また、ブリュースター窓の設置も不要となる。
しかし、大出力レーザーでは、熱などの問題でキャビティと反射鏡を一体型にすることが困難なため外部ミラー型となる。
外部ミラー型では、チューブ端面の窓ガラスの境界面によって光を何度も往復させるため反射による損失が無視できなくなる。
しかし、ある角度を持って光学ガラスを取り付けると反射がほとんどない状況が作り出せる。
この角度を発見者(英国物理学者ブリュースター、Sir David Brewster、1781~1868)にちなんでブリュースター角という。
この窓を設けると、この窓に垂直な光の成分だけをほとんど損失なしに透過できるようになる。
光を何度も往復させて光増幅させなければならないレーザー共振器にとってはありがたい原理である。
しかしその光は偏光をもったものになるため、出力光を偏光フィルタを通して見ると光が見えなくなってしまう。
ブリュースター窓を設けたレーザー出力はきれいな直線偏光となるので、偏光を用いる応用には便利である。
コヒーレント光
ヘリウム・ネオンレーザーは、励起波長がλ=632.8nmの単波長発振光である。
発振出力は1mWから100mWまでの比較的低い連続発振(CW=Continuous Wave)である。
半導体レーザーではヘリウム・ネオンレーザー程度の発振出力を持つコンパクトなものが開発されているので、役割を半導体レーザーに譲りつつある。
しかしながら、ヘリウム・ネオンレーザーには以下のような特徴があるため、レーザー測定器、各種アライメント用マーカ、ホログラフィ再生光源には今現在も利用されている。
- ガスレーザーならではの出力安定性が良い
- コヒーレント性(発振波面の精度)が良い
- ビームダイバージェンス(拡がり角、光ビームの射出される平行性)が良い
ヘリウム・ネオンレーザー光は、直線性と波面精度が良い(コヒーレント)光といえる。
音楽用のCD光源や、MO装置の光源にはヘリウム・ネオンレーザーの必要性はないが、100mを越える船舶建造の際のレベルを出したり、半導体の製造上の位置合わせ用のアライメント光にはまだまだ有効である。
また、サブミクロンの測定装置にはヘリウム・ネオンの精度の良い波長は有効である。
長さの基準となるヘリウム・ネオンレーザー
メートル原器に変わって長さの単位が光によって定義づけられるようになった。
長さの単位は、最初フランスで作られたメートル原器が唯一絶対のものであったが、1960年にクリプトンの光を元にした測定法が長さの定義にかわり、1984年の制定では、定義の中に光の質の記述がなくなり、光の速度で長さを定義するようになった。
クリプトンより精度の出る測定法が確立されたからである。
現在ではその光にヘリウム・ネオンレーザーが使われている。
つまり、それだけヘリウムネオンのレーザー光は安定している証拠といえる。
ヘリウムネオンレーザーの波長は、米国NBSにおいて測定された報告によると、標準計量状態、すなわち、1気圧、温度20℃、相対湿度59%、炭酸ガス含有量0.03%のもとで、632.81983nmとされている。
有効数字8桁である。
この安定して発振するヘリウム・ネオンレーザー光を使って長さの基準が作られているのである。
長さを正確に求めるには、レーザー単色光の波長が極めて安定していることもさることながら、光の速度が正確にわかっていることと、時間をカウントするカウンタ=時計も正確なものでなければならない。
光速の測定は、米国マイケルソンの功績により有効数字9桁まで測定されている。
またセシウムの原子時計によって時間クロックは160万年に1秒の誤差にまで高められている。
ビームダイバージェンス(ビーム拡がり角、発散)
レーザーは直線性がよく、光が遠くまで到達する。直線性が良いことがレーザービームの特徴であるが、それでも長い距離ではビームに拡がりが生じる。
ビームの拡がり具合を示す数値がBeam Divergenceと呼ばれるものである。
単位はラジアンで示されるが、この単位では値が大きいので1/1,000にしたミリラジアンがよく使われる。
拡がり角θ(ミリラジアン)は、ビームが出力された距離Lにtanθを掛け合わせるとビームの拡がる値となり換算に便利である。tanθは、θが50ミリラジアン以下ではtanθ=θとみなして差し支えないので、拡がり角θにビーム出力距離L(m)を掛け合わせた値が拡がり量(mm)となる。
たとえば、ヘリウム・ネオンレーザーの拡がり角は、約1ミリラジアンなので、1mでは1mm、10mでは10mmの拡がりとなる。
ヘリウム・ネオンレーザーは、直線性がよいレーザーとしても特徴がある。
ビーム拡がり角は出力ビーム径と発振波長によって決まり、波長の短いものほど、また、ビーム径の小さいものほど拡がり角は小さくなる。
画像用の光源としての位置づけ
ヘリウム・ネオンレーザーは上記のような特徴をもつ光であるが、この光源をカメラの照明光源として使うことはあまりなされていない。
その理由は、ヘリウム・ネオンが極めて干渉性が強い光であるため縞状のスペックルがでやすく、光学系に付着したゴミなどで干渉縞を起こしやすいために白色光源のようなきれいな画像が得られにくいからである。
また、光源の出力が10mW程度と小さく、このビームをφ100mm程度に拡げると約250lxとなり事務所内の明るさ程度になってしまう。